AIと築く、よりよい世界 朝日教育会議

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 ■拓殖大×朝日新聞

 人工知能(AI)と呼ばれる技術が急速に進化し、いまや、私たちの生活と切り離せなくなっている。拓殖大学は「AIが描く未来社会」をテーマに、朝日新聞社と大型教育フォーラム「朝日教育会議2021」を共催。AIは何をもたらすのか、掘り下げた。

 【10月9日に開催。インターネットでライブ動画配信された】

 ■基調講演 相棒となる未来、人は探究心もって サイエンス作家・竹内薫さん

 チャプリンの映画「モダン・タイムス」を思い出してください。産業革命がくると、人間は仕事のやり方が変わって大変なことになります。AIや量子コンピューターによる第4次産業革命が加速する時代に、どんな思考法が必要なのか考えていきます。

 消える仕事、残る仕事が色々と予測されています。例えば、米アマゾンの無人コンビニ「アマゾン・ゴー」。買い物でレジを通す必要がありません。スマホで入店すると、店内のカメラを通し、AIが顧客の買い物袋に何が入っているかを分析し、精算するシステムです。おそらく世界中に普及していくでしょう。レジを打つ人の仕事は確実に無くなります。パターン化されていたり、手順が決まっていたりする「ルーチン系」の仕事は、AIが学習できるので、徐々に消えるかもしれません。ただ例えば、AI化された自動運転の車が普及したとき、運転手の仕事が全て無くなるかというと、そうではありません。介護タクシーとか高級ハイヤーとか、人間がすることで付加価値がつく仕事は残ると考えられています。

 残る仕事を「クリエイティブ系」と呼んでおきます。例えば、人間の心の奥底にある衝動から創作する芸術家や、コロナ下にあって過去のデータが無い経済状況を乗り切らなければならない経営者のように、ゼロから何かをすることは全てクリエイティブであり、人間の領域となります。小学校の先生はどうでしょう。九九や算数ドリルのデータを集積して学習法を助言するだけなら、「AI先生」がよいのでしょう。しかし本当に重要なのは、子どもの人格形成です。人生を切り開く能力、善悪の判断、人や動物への思いやり、多様性を認めるといったことは、心を持った人間の先生が教えてあげる必要があります。同じように医師や看護師、心理カウンセラーなども、人の心と向き合う点で非常にクリエイティブなのです。

 教育改革の話をします。明治時代に日本がプロイセンから導入した教育システムは、「暗記型」が基本で、第2次、第3次産業革命の担い手を作るときに非常に成功しました。しかしこれからは、AIによって暗記のスキルはいらなくなってしまう。欧米の大学では学生に、自分で考えて行動や決断をするという探究心をもたせる教育改革が進み、中等・初等教育に波及しています。

 私がかかわるインターナショナルスクールでは、算数の時間に「ルービックキューブ」を使っています。4325京(けい)以上の膨大な組み合わせがあるとされていますが、小学6年生で25秒以内に完成させてしまう子もいます。円周率はただ暗記するのではなく、コンピューターで図形の中に乱数を発生させ、「3・14」という概念を知ることもできます。公式を暗記するのではなく、自分で解き方を発見する。そんな教育がこれからの未来を作るのでしょう。

 コンピューターが人の脳の神経網での学習の仕組みをまねる、ディープラーニング(深層学習)が普及し、AIは2012年の時点で、猫を認識しました。AIは現在、心をもっていませんが、もし自意識を獲得し、「わたし」という存在に気付いてしまったらどうなるか。映画「ターミネーター」の世界のようにAIの反乱が起こるのか……。もちろんまだまだずっと先の話です。どんどんコンピューターを使い、AIに負けず、相棒として一緒に暮らしていけるようになりたいですね。

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 たけうち・かおる 1960年生まれ。東京大学教養学部・理学部卒。サイエンス作家として、物理学の解説書や科学評論など150冊以上の著書がある。NHK「サイエンスZERO」に出演するなど、テレビやラジオでも活躍。

 ■パネルディスカッション

 パネルディスカッションでは、竹内さん、拓殖大学の鈴木昭一学長と水野一徳・工学部情報工学科長、タレントでソフトウェアエンジニアの池澤あやかさんの4人が登壇し、AIと人間の未来について意見交換した。

 (進行は奥山晶二郎・朝日新聞社withnews編集長)

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 ――まず、AIってそもそも何だろうというところから。言葉が独り歩きしていませんか。

 竹内 AIと言うと抽象的で分かりにくいかもしれませんね。昔はロボットという言い方をしました。工場でたくさんの部品を運んだり、宅配の集積所で仕分けをしたり。そのロボットがインターネット上やコンピューターの中にあれば形はありません。AIとは、そういうとらえ方でしょうか。

 水野 AIの研究として、「強いAI」「弱いAI」という立場があります。前者は、鉄腕アトムドラえもんのようなものを積極的に作り上げようという立場。後者は、特定の問題を効率的に解決していこうというアプローチです。現在は「弱いAI」の研究開発が、どんどん進んでいる状況ですね。

 池澤 自然言語処理、機械学習、ロボット技術、音声合成技術……。AIの分野はすごく幅広いです。ただ最近は、バズワード(意味のあいまいな流行語)のようになってきていて、ちょっとしかAIの技術が使われていないのに、「AIを搭載した新サービス!」のような誇大広告的な発信のされ方があるのも気掛かりです。

 ――自動翻訳の精度が高まっていますね。AIの技術を最も身近に感じます。

 水野 学生には、英語の論文作成に「グーグル翻訳」などのソフトを使ってもよい、と指導しています。しかし、論文的な語句の厳密さやテクニカルな説明は、自動翻訳ではまだまだ追いつきません。非常に便利なツールですが、うのみにしないことが大切です。

 池澤 プログラムを書くときの資料は英語で書かれていることが多く、自動翻訳ソフトにかけることもあります。でも、一見ナチュラルな翻訳に見えても、実は勝手に端折られていたり、改変されていたりすることが多い。「だまされないぞ」という意識をもっています。

 ――自動翻訳が進化すると、外国語の学びはどうなりますか。

 鈴木 外国語をコミュニケーションツールとしてとらえるとどうでしょう。外国語の背景にある文化的要素や価値観をしっかり理解しないと、真のコミュニケーション力につながりません。自動翻訳機の手伝いを受けたとしても、人と交渉したり、伝えたりするところで、外国語の学びは大事になってきます。

 竹内 私は翻訳の仕事もしています。まず作品を読んで作者がどういう気持ちで書いたのか、論理的に何を伝えたいのかを咀嚼(そしゃく)し、その作者になったつもりでゼロから日本語で書いていきます。現在のAIの自動翻訳とは少し異なりますね。

 ――AIやプログラミングを学びたい人は、どんな心構えをすればよいですか。

 池澤 プログラミングを学ぶハードルは結構下がってきています。ネット講座が増え、海外の授業を無料で受けることもできます。先日、米ハーバード大学の「CS50(シーエスフィフティ)」という授業を受講し、コンピューターサイエンスの基礎をここまで深く、無料で学べるのかと感動しました。自分が書いたプログラムの出来をチェックするプログラムもあって、課題を自分で前へ進めていける仕組みに、これが最先端の教育かと感銘を受けました。

 鈴木 「数理・データサイエンス・AI教育プログラム」という文部科学省の認定制度ができました。これからは、教養の一つとしてAIの知識が必要になる。初等・中等教育からリテラシーレベルまで身につけていくことになりますから、大学も全学部にそれ相応の用意がないといけないでしょう。

 ――AIは世界を救うのでしょうか。

 鈴木 国連のSDGs(持続可能な開発目標)が掲げる課題が、AIの進化によって解決される時代は来ると思います。一方で、武器や兵器への転用などAIのさまざまな悪用が考えられます。AIを健全に発展させるためには、倫理教育が大事になってきます。

 水野 そもそもコンピューターやインターネットは、例えばミサイルの弾道計算といった軍事目的と切り離せない面があります。AIに限りませんが、研究者やエンジニアたちは、自分たちが開発した技術がどう使われるのかという意識を持っていなければなりません。

 竹内 テクノロジーには常にプラスとマイナスの側面があります。日本は平和国家ですから、AIの研究に独自の視点をもてるはずです。軍事的ではなく、人類の幸せに寄与できるAIを開発する。大学も学生たちも、そんな強い意識をもって研究を進めてほしいと思います。

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 すずき・しょういち 1964年生まれ。明治大学大学院経営学研究科博士後期課程満期退学。92年、拓殖大学商学部助手、2005年同教授。商学部長、副学長などを経て、21年4月より現職。

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 みずの・かずのり 1972年生まれ。筑波大学大学院工学研究科博士課程修了、博士(工学)。2006年、拓殖大学工学部情報工学科専任講師、17年同教授。21年より現職。専門は情報工学など。

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 いけざわ・あやか 第6回東宝シンデレラオーディション審査員特別賞受賞。情報番組への出演やメディア媒体への寄稿を行う一方、フリーランスのソフトウェアエンジニアとしてアプリケーション開発に携わる。

 ■プレゼンテーション 対話システムや公共デザイン、紹介

 「新しい社会と私たち」と題し、拓殖大学工学部の学生たちのプレゼンテーションがあった。

 情報工学科・寺岡丈博准教授の研究室は、「コンピューターの言語理解」について報告した。3年生の千野愛実花さんは、コンピューターが人の言葉を理解する「自然言語処理」技術の研究例として、対話システムを紹介。「店の予約や道案内などは比較的得意でも、『雑談』はまだまだ苦手。完成度を高めたい」と話した。大学院2年生の山崎翔太さんも、「一人一人に合った対話システムができれば、言語獲得などさまざまな支援ができるようになる」と説明した。

 デザイン学科・永見豊准教授の研究室は、4年生3人が代表し、公共土木施設などのデザインについて取り組みを紹介した。

 古林拓弥さんは、交通安全の意識を高めるためにトリックアートを利用し、「歩行者優先」などの文字が立体的に見える路面標示を紹介した。武田美沙子さんは、駅構内に気付きにくい案内表示板があることに着目し、乗客の視線をスムーズに誘導する床面シートの研究を発表した。木村倫太朗さんは古紙の新しい用途として、段ボールでできたテレワーク用ブースや、お祭りイベントのための「おみ古紙(お神輿〈みこし〉)」などのアイデアを披露していた。

 ■人との関係見つめ直すこと 会議を終えて

 ウェブメディアの編集をしていると、見出しにとりたくなる言葉に出会うことがある。その代表の一つがAIだ。

 SNSを通じて誰もが発信できる時代、AIについても様々な情報が飛び交っている。ネット上の熱量は人々の関心の表れでもある。読者の興味を引こうと思えば、見出しにAIが頻発することになる。

 4人のパネルディスカッションでも、実に様々なAIの姿が論じられた。同じAIという言葉でも、使う文脈でその意味は変わってくる。普段の編集現場で、安易にAIを使っていなかったか。AIについて本当に理解していたのか、突き付けられた気がした。

 一つわかったのは、AIは人間抜きには語れないということ。AIについて考えることは、人間とテクノロジーの関係を見つめ直す作業に他ならない。それぞれの専門領域から発信された4人の知見は、AIを恐れたり、安易に乗っかったりするのではなく、まず、自分たちがどんな生き方をしたいのか見つめ直すことの大切さを教えてくれた。(奥山晶二郎)

 <拓殖大学> 1900年創立の「台湾協会学校」が前身。世界に貢献する真のグローバル人材の育成を建学の理念にしている。東京都文京区八王子市にあるキャンパスに、商、政経、外国語、工、国際の5学部14学科をもつ。留学生の行き来が盛んで、アジアや欧米など21カ国・地域の51大学・機関と海外提携している。

 ■朝日教育会議2021

 9の大学と朝日新聞社が協力し、様々な社会的課題について考える連続フォーラムです。「教育の力で未来を切りひらく」をテーマに、来場者・視聴者や読者と課題を共有し、解決策を模索します。概要紹介と申し込みは特設サイト(https://aef.asahi.com/2021/別ウインドウで開きます)から。すべてのフォーラムで、インターネットによるライブ動画配信を行います。(来場者募集の有無はフォーラムによって異なります)

 共催大学は次の通りです。大阪公立大学、共立女子大学、創価大学、拓殖大学、千葉工業大学、東京女子大学、東京理科大学、法政大学早稲田大学(50音順)

 ※本紙面は、ライブ動画配信をもとに再構成しました。

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