(悩みのるつぼ)亡き友に問い逃したこと=おことわりあり

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 ●相談者 男性 70代

 70代男性です。50年来の友人のことで相談させてください。

 同じ大学から同じ会社に就職し、互いに独身の若い頃はよく遊びました。そのうち彼は同期の仲間たちのリーダーとなり、順調に出世し、部長まで務めました。一方、私は中間管理職止まりでした。友人の出世は自分にとってあまり喜ばしいことではありませんし、ライバル意識がなかったといえばうそになります。それでも在職中は自分もそれなりに納得していました。

 2人とも会社にいた時から、出身大学のOB会の活動にも積極的に参加し、盛り上げてきました。共に定年退職して大学OB会の幹部役員になりました。彼は在職中の実績もあって組織の代表となり、私も彼をもり立てて、協力を惜しまずナンバー2の地位にいました。

 やがて役員改選の時が来ました。私は自分が代表に推されると勝手に思っていたところ、彼は自分の後継に別の人間を指名しました。私としては、彼から代表をやってみないかと声がかかると思っていたのでしたが、全くの期待外れでした。彼への友情は一瞬のうちに消え去りました。せめてひと言、声をかけて欲しかった。結局、OB会は退会しました。

 胸のうちを伝えることができないまま、彼はがんを患い、数カ月前に亡くなりました。どのように心の整理をしたらよいでしょうか。

 ○回答者 社会学者・上野千鶴子 一生序列を確かめ合いながら生きるの!?

 ふーん、男ってこんなもんですかねえ。一生マウンティングしあって、序列を確かめ合う関係のなかに生きるなんて。序列のもとで強烈なライバル意識を持ちながら、尽くし尽くされる男同士の関係を「男の友情」とか「同志愛」とか呼ぶのでしょうか。最近では「ホモソ」ことホモソーシャルとも呼ぶようになりました。

 日本の企業はこのホモソ集団の中での競争を人事に利用してきました。企業は業績があからさまに評価される厳しい世界。同じ大学から同期で入社したあと、友人は出世。そこでは友人が上位に立つことも納得できたんでしょう。

 出身大学OB会もまたこういうホモソ集団の再生産装置。学歴社会はなくなったなんていうけど、学閥とコネは生きています。OB会では業績主義は問われませんから、同期のよしみであなたが「ナンバー2」になったのでしょう。次期代表に指名されなかったことで、献身してきたOB会から退会するほど傷が深かったんですね。

 あの時どんな「ひと言」をかけてほしかったのでしょう。「キミを代表に」という期待した「ひと言」は出ませんでした。事前に「相談があるんだけど」と持ちかけてほしかったんでしょうか。それがあなた以外の誰かでも、あなたは納得したでしょうか。事前に相談もなく、予告もなかったこと自体が、彼のあなたに対する判断の証です。

 末期がんの彼に「胸のうちを伝え」なくて正解でした。彼が「すまなかった」と言うとは限りませんし、「こんなことにこだわるからキミはいつまでもナンバー2なんだよ」などと言われたら、もっと傷ついて立ち直れなくなるだけでしょう。彼がやったことがあなたに対する彼の評価です。自分の器(うつわ)の小ささに臍(ほぞ)をかんでください。そして自分の器にふさわしい人生をせいいっぱい送ってきた、と思ってください。リーダーばかりがいても組織はまわりません。ナンバー2がいるからリーダーがリーダーでいられるんです。あなたに対するフォローが足りなかったとしたら、彼にもリーダーとしての器量が不足していたかもしれませんね。

 なるほど官僚の一人が昇進すると同期が全員出向するという役所の慣行の理由がわかります。ホモソ集団の人事管理術がこの男同士の嫉妬のコントロールにあるとしたら、このパワーゲームに「女が入っていけない/いきたくない」のも道理。今回のご質問は大変勉強になりました。

〈おことわり〉

 今回の「悩みのるつぼ」に掲載した相談は、先に他紙に載った相談と同じ内容でした。二重投稿はお断りしていますが、今回は編集部の確認が不十分で気づくことができず、掲載に至りました。他紙とは回答内容は異なっています。

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