AIの開発速度は落とすべき 人類史を振り返りハラリ氏が指摘する訳

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聞き手・田島知樹
【動画】インタビューに答える歴史家のユヴァル・ノア・ハラリ氏=嶋田達也撮影
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 「物語」を通した大規模な協力によって人類は覇者となった。かつて、そう喝破したイスラエルの歴史家ユヴァル・ノア・ハラリ氏は、新著で一転、人類の未来について危機感を示す。世界中で不信と憎悪が渦巻き、民主主義が崩れていく現状を、AI(人工知能)という技術が悪化させる可能性があるという。

 ――AIをなぜ危険視するのですか。

 「文字や印刷といったこれまでのあらゆる技術と異なり、AIは自律的に動くエージェントだからです。印刷機はただの道具です。自分で新しい本を書くことはできない。AIは自分で文章が書けます。ある分野ではすでに人間よりも知能が優れている。それでも現在のAIはまだ非常に原始的であり、私たちはまだ何も見えていないだけかもしれない。細心の注意を払わなければいけないと思います」

 「私は起業家や政府関係者にいつもこう問います。なぜそんなに速く動いているのですか、と。なぜAIの開発スピードを落とし、人類が適応するための時間を与えず、より慎重に行動しないのか、と。彼らは、脅威は認識しているようです。ただ他の国や企業に負けたくないからスピードを落とせない」

 「でも歴史上人類は大きな困難があっても信頼関係を築き、協力してきました。だから今回も賢明な方法でAIの開発を管理することはできるはず。私はAIは明らかに大きな利益を生む可能性があるし、史上最高の発明になるとも思っています」

 ――しかし、開発の速度が速いと。では、どれくらい落とせばいいのですか。

「偽の人間」が崩す民主主義の土台

 「あまりに速く動いているの…

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この記事を書いた人
田島知樹
文化部|論壇担当
専門・関心分野
国際政治、特に欧米の外交史
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    藤田直哉
    (批評家・日本映画大学准教授)
    2025年4月25日8時17分 投稿
    【提案】

    民主主義は集団の合意形成なので、情報通信技術が重要だった。大事な視点だと思います。印刷技術により、同質な国民という意識が形成されていくようなことも重要な変化でした。そのような印刷メディアを前提としてきた制度や価値観が、映画、テレビ、ネット、

    …続きを読む
  • commentatorHeader
    川上泰徳
    (中東ジャーナリスト)
    2025年4月27日10時3分 投稿
    【解説】

    ハラリ氏がAIの戦争利用について「すでに変化は生じています。人間には不可能なレベルの情報処理をAIが実施し、戦場での標的を選んでいます」というのは、まさにイスラエルのガザ攻撃で行われていることである。 イスラエルの独立系メディア「+972マ

    …続きを読む