「徹底した肯定」が持つ力 美談越えたケアの思想、問い続けた編集者

有料記事

聞き手・藤生京子

 ケアをめぐる議論がブームだ。編集者の白石正明さんは、既に四半世紀近く前から、「シリーズ ケアをひらく」(医学書院)を一人で手がけ、有名無名の書き手による話題作を次々送り出してきた。見えてきたものは何か。3月末に退社しフリーになったのを機に、「ケアの語り方」について聞いた。

世界の見方を変える本を

 ――著者の顔ぶれを見ると、東畑開人さん、國分功一郎さん、伊藤亜紗さん、上野千鶴子さんら著名な論客のほか、新たな書き手も抜擢(ばってき)して多彩です。大佛次郎論壇賞や大宅壮一ノンフィクション賞、小林秀雄賞など受賞も多い。43冊を一望した雑誌「精神看護」3月号は異例の増刷でした。反響は予測していましたか。

 「とんでもない。2000年に広井良典さんの『ケア学』からスタートした時、まさかこんなに続くとは思ってもみませんでした」

 「最初は医療と福祉の専門家の本が多かった。それからALS(筋萎縮性側索硬化症)や精神障害、脳性まひなど病気や障害をもつ当事者・家族が語る本が増えた。一方で様々な分野の論客にケアを論じてもらいました。作家、建築家、哲学者、文学研究者、ロボット学者など。この三つがバラバラに展開していった感じですが、著者が多様なら、語り方もいろいろで。たとえば昨年、『超人ナイチンゲール』を出した栗原康さんは大杉栄論で知られる政治学者。八方破れな文体で人気のアナキストです」

 ――その多彩さが、タイトルにある「ひらく」だと。

 「ケアとはこういうもの、と定義し狭めていくやり方の逆です。面白い本――僕の言葉でいえば、読者を驚かせ、世界の見え方を少し変える本にできればと思った」

 「ケアって『いい話』になり…

この記事は有料記事です。残り2757文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません