インダス川流域、多様な文化を記録 梅棹忠夫文学賞に船尾修さん

貞松慎二郎
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 文化人類学者で探検家としても知られた故・梅棹忠夫さんにちなんだ「梅棹忠夫・山と探検文学賞」の第13回受賞作に、大分県杵築市の写真家・船尾修さん(63)の「大インダス世界への旅」(彩流社)が選ばれた。30年近く取材を重ねたインダス川流域の記録を凝縮した力作だ。

 1990年代初め、クライマーとしてパキスタンの高峰に挑んだ船尾さんは、そそり立つ大岸壁や氷河の造形美、岩陰にひっそりと咲く高山植物に魅せられた。山麓(さんろく)に暮らす人々への興味が向くまま、カメラを携えて訪ね歩いた。インダス川の源流付近から河口部まで3千キロ余り。文化や宗教など多様性に満ちた流域の魅力を旅人目線で記録し続けた。

 チベットに伝わる「五体投地」の巡礼や鳥葬を目の当たりにしたり、厳冬期のみインド北部の川に出現する「氷の回廊」を命からがら渡ったり。死者が7万人を超えたパキスタン北部大地震、紛争が続くアフガニスタンの荒廃ぶりも取材した。ジャーナリスティックな紀行文と迫力のある写真が訴えかける。

 船尾さんは神戸市生まれで、周りから「昆虫博士」と呼ばれる少年だった。筑波大で環境生物学を専攻し、自然探検部で登山に熱中した。出版社を退職後、アフリカ大陸の放浪旅行を機に写真家の道へ。2001年に東京から大分の国東半島へ移住し、「半農半写」をモットーに無農薬で米や野菜を作りながら、人々の暮らしと風土の関係性を意識した作品を発表している。

 写真集「フィリピン残留日本人」(冬青社)は16年、林忠彦賞を受賞。被写体は戦前にフィリピンへ渡った日本人移民の2世たちで、戦後70年の節目に出版された。その取材がきっかけで中国東北部に渡り、日本の傀儡(かいらい)国家時代の建築物を撮影行脚。その成果の写真集「満洲国の近代建築遺産」(集広舎)は昨年、土門拳賞に輝いた。いずれもモノクロフィルムでの表現にこだわった。

 今回の受賞作は船尾さんが最も時間をかけたテーマで、「大先輩の名前を冠した賞をいただけるのはすごくうれしい。梅棹さんも生態学を勉強していて民俗学文化人類学に軸足が移っていき、私の活動と重なるところがある」と話した。

 家族で暮らす国東半島には古い寺院が点在し、神仏習合の六郷満山文化が受け継がれている。「ラオスの少数民族も旧正月に餅をついて食べる。祭りや習俗を通して、日本人の心のルーツをひもといていきたい」貞松慎二郎

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