第10回北朝鮮の「人民大衆第一主義」、実は指導者ファースト 韓流に警戒

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聞き手・箱田哲也
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北朝鮮インサイト

 北朝鮮は4月15日、「民族最大の祝日」とされる故・金日成(キムイルソン)主席の誕生日を迎え、各地で祝賀行事を開きました。金日成氏らを首領と位置づけ、絶対的な存在として人々に忠誠を誓わせる北朝鮮。今回の「北朝鮮インサイト」では、そのイデオロギーにどんな特徴があるのかを、公安調査庁で長く北朝鮮を見てきた坂井隆さんに聞きました。

 〈箱田〉坂井さんは前回、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)総書記が強調する「人民大衆第一主義」にはトリックが潜んでいると指摘しましたね。どんなトリックですか。

 〈坂井〉人民大衆第一主義では「人民のための政治」を連発し、党は人民に「滅私服務」すべきだと主張しています。でも、何が人民のためであるのか、それをいかに実現するかを人民自身が選択するとの主張はありません。それは「首領」によって判断されるというのが「主体思想」以来の大前提になっているからです。

北朝鮮ウォッチャー・坂井隆さん

1951年生まれ。78年に公安調査庁に入庁し、ひたすら北朝鮮をウォッチし続けてきた。2012年に退官後も独自に分析を進め、その手腕は専門家らの間でも高い評価を得ている。共著に「独裁国家・北朝鮮の実像」(17年、朝日新聞出版)など。

 〈箱田〉人民大衆が何を求めているかが重要ではなく、トップが決めると?

 〈坂井〉人民大衆第一主義の下では、人民には無限の力が内包されており、それを余すところなく発揮させることが政治の要諦(ようてい)であって党の重要な任務だと強調されています。その結果、人々には、指導者が掲げた目標実現のため、献身、奮闘することが強く求められます。さらに、得られた成果は指導者の「人民をいつくしむ親のような愛」のたまものであるとされ、人々は当然の「義理」として、恩に報いるため一層の忠誠・努力を尽くすべきだとされるのです。

【連載】北朝鮮インサイト

核・ミサイル開発に邁進し、日本にとってやっかいな隣国・北朝鮮。この国は実際どうなっているのか。40年以上にわたり、北朝鮮を分析してきた元公安調査庁幹部の坂井隆さんによる、プロフェッショナルの見方をお届けします。

 〈箱田〉結局は指導者に忠誠を尽くせ、という虫のよい話ですね。

 〈坂井〉人民大衆第一主義だ…

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