創業400年、京都の老舗「唐長」の唐紙 文様の世界を描く映画

西崎啓太朗
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 渦巻き、波紋、雲、桐(きり)――。人々は文様とともに生きてきた。今年、創業400年を迎えた京都の老舗唐紙店「唐長(からちょう)」は、文様を和紙に写し取る「唐紙」を作り続ける。この唐長を中心に、人々が文様を刻む理由に迫る映画「フィシスの波文」が京都シネマ(京都市下京区)で5月2日まで上映されている。

 唐紙は、もともと中国から伝わった紙のことで、文様が施されるようになった。ふすまや屛風(びょうぶ)、文化財の修復、現代アートなどに使われる。

 唐長は江戸初期の1624年に創業した。文様が刻まれた板木(はんぎ)に顔料をつけ、その上に和紙をのせ、手のひらでこすりながら色を写し取って唐紙を作る。

 映画では、1枚1枚、時間をかけて作られる現場が映し出される。たとえば、京都府綾部市で800年以上続く手すきの黒谷和紙の工房だ。黒谷和紙は、唐長の唐紙を作る際に使われている。

 茶道三千家の一つ、武者小路千家の官休庵(京都市上京区)も取り上げる。官休庵は創建時から茶室の戸に、唐長で作られた唐紙を用いている。

 文様の旅は京都にとどまらない。イタリア北部・カモニカ渓谷には約1万年前の岩絵が残り、文様が描かれている。アイヌ民族の文様が継承されている北海道平取町二風谷(にぶたに)も巡った。

 監督の茂木綾子さんが撮影・編集した美しい映像の中に、職人やデザイナーたちの思いが織り込まれている。

 映画は、プロデューサーの河合早苗さん(64)の提案で生まれた。イタリアで働いていた河合さんは1990年に帰国し、唐長の工房を初めて訪れた。600を超す板木が受け継がれ、そこに刻まれた文様に心を奪われた。19歳のときにアルバイトをしていた二風谷や、その後に暮らしたヨーロッパで出会った文様と重なって見えたからだ。

 「アジアの片隅の小さな工房に、なぜ世界とつながる文様が残っているのか。古代から続く文様はどこから来るのか」。深まった謎が映画作りにつながった。

 タイトルの「フィシス」は古代ギリシャ語で、あるがままの自然を意味する。河合さんは「太古から刻まれてきた文様を未来に残したいという思いも映画に込めました。世界中に広がる文様の魅力を知ってほしい」と話す。

 映画は文化庁の文化芸術振興費補助金などで作られた。上映時間は85分。神戸市の元町映画館でも5月11~17日に上映される。(西崎啓太朗)

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