第13回自分を変えればふたりが変わる 男らしさに縛られない 高知東生さん

有料記事ふたりのかたち

 パートナーとうまくいかないとき、相手に「変わってほしい」と思いがちです。俳優の高知(たかち)東生(のぼる)さん(59)は「まず自分が変わることから始めてみては」と言います。とはいえ、自分を変えるって簡単なことではありません。逮捕や離婚を経験し、生き直してきた高知さんの道のりに、そのヒントがありそうです。

大切な相手だからこそ

 先日配信された、アルコール依存症の妻と夫の記事を読みました。

 僕は薬物依存症の当事者なので、アルコールへの依存から抜け出せなかった妻の苦しみがリアルに伝わってきます。一方、同じ男性として「男道」にしばられたという夫のつらさも理解できました。どちら側にも共感しましたね。

 記事のご夫婦はきっと、お互いに相手のことを大切に思っていたのでしょう。でも、大切に思えば思うほど、本当の自分を見せられないこともある。弱い自分を見せるとがっかりさせるんじゃないかと考えてしまいますよね。おふたりに夫婦げんかが絶えなくなったのは、本当の気持ちをきちんと話し合うことができなかったからかなと想像しました。

 よかったのは、自分たちだけで何とかしようとせずに、信頼できる人の力を頼ったことだと思います。おふたりの場合、依存症の本人や家族同士が語り合う「自助グループ」に通って、仲間の力を借りたことです。

 だから自分のふるまいを変えることができたし、結果として夫婦げんかがなくなった。その気づきと学びは一人では得られなかったと思います。

幸せになるために、人生をともに歩むと決めたはず。でも、パートナーとの毎日が思い描いたものにならない人もいます。苦しみの原因は、改善策は。たくさんの「ふたりのかたち」を通して考えます。

逮捕、離婚をへて

 僕は2016年、薬物の所持で逮捕され、俳優の妻とも離婚しました。多くの友人、知人が離れていく。孤独で、絶望しかありませんでした。

 そんな時、「自助グループ」に参加しました。はじめから積極的に通ったわけじゃありません。内心、「俺はあいつらとは違う」とさえ思っていました。

 でも、通い続けるうちに、安心して自分の弱さや情けなさをさらけ出せるようになったんです。その場所が誰からも傷つけられる恐れがない安全地帯だと体感できたからでしょうね。

 弱い自分。傷つくのを恐れて…

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    中川文如
    (朝日新聞スポーツ部次長)
    2024年4月29日12時0分 投稿
    【視点】

    よくよく考えてみれば取るに足らないプライドみたいなもの、誰にでもあるのだと思います(もちろん私にもあります)。高知東生さんがおっしゃる「認知のゆがみ」って、それに近いものがあるんじゃないかと思います。そういうものから解き放たれて、自分の弱さ

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    永田豊隆
    (朝日新聞記者=貧困、依存症、社会保障)
    2024年4月29日12時0分 投稿
    【視点】

    「ふたりのかたち」の関連インタビューとしては意外な人選かもしれません。私が高知東生さんを引っ張り出したいと思ったのは、SNSや著書での言葉に深みと力を感じたからです。 依存症からの回復とは、単に酒や薬物、ギャンブルをやめることではありません

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