「仕事できる人」と思われてつらい? 「必死で頑張る」をセーブする

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臨床心理士・中島美鈴

 仕事ができる人のところに仕事が集中してしまい、気づけば仕事量が増えすぎて、過労死寸前に……。この循環から抜け出すために、本人ができる対策を紹介するコラムの後編です。

 前回は上司からの期待を背負って、懸命に仕事をこなすゆえに、成果を上げてしまい、さらにまた仕事を頼まれ、疲労困憊(こんぱい)でプレッシャーになっているマコトさん(仮名、40代男性)の例をご紹介しました。

 マコトさんが、実は「自分は不器用でできる男ではない」「そのままの自分では上司からも(親からも先生からも)評価されない」と思っているからこそ、コツコツと自己犠牲的な努力を重ねてまで頑張ってしまい、なんとか上げてしまった成果をみて、さらに上司から別の仕事を頼まれてしまうという悪循環に気づく作業をしました。

 今回は、こうした悪循環に気づいた次の一歩をご紹介します。

(マコトさんの元に仕事が集まる悪循環)

 ①むちゃな仕事を振られる

  ↓

 ②「期待に応えなければ」「できると思われたい」「上司に好かれたい」

  ↓

 ③必死で頑張る

  ↓

 ④良い成果が出る

  ↓

 ⑤上司はますます期待する「あいつはできるな」

  ↓

 ①’また仕事を振られる

期待通りに仕事しなければ…という思い込みへの対処

 マコトさんは、②「期待に応えなければ」「できると思われたい」「上司に好かれたい」と考えています。もっといえば、

 マコト「上司の求めるとおりにこの仕事をこなさないと評価されない」

 と思い込んでいるのです。これは果たして正しいのでしょうか?

 マコトさんは見逃している側面があるかもしれません。

 例えば、上司が今回の仕事を頼まなかった他の同僚のことです。

 上司はマコトさん以外の同僚たちにどんな評価をしているのでしょう。特に失望しているわけではないでしょう。解雇する予定もないでしょう。それならば、マコトさんの仕事の質が許されるスレスレの水準でも、上司がマコトさんの評価をいきなり下げることは考えにくいと思いませんか。

 ということは、マコトさんがまずとれる戦略ひとつめは、「ぎりぎり許されるぐらいの水準を目指して仕事をする」ことです。先ほどの悪循環の「②『期待に応えなければ』『できると思われたい』『上司に好かれたい』」のところを、「②’『ギリギリ許されるぐらいに仕事しても上司だって自分が断るよりは助かるはずだ』」ぐらいに書き換えるのはいかがでしょう。

 このように考えるとどぎまぎしてしまいそうならば、「100%期待に応え続けた結果が今の状況だろう? 上司の期待に応えて評価されたところで、仕事を増やされたじゃないか」とか「この期待への応え方を90%、80%と下げつつ、調整していく方がお互い幸せじゃないか」などの考えもとりいれてみませんか。

「必死で頑張る」をセーブする

 また、冒頭の循環を見てみると、認知行動療法の視点からは、「③必死で頑張る」にも手を入れたいところです。以下の二つの作戦を提案します。

・作戦その1: 少し早めにタスクを仕上げたとしても、あえて少しおいてから完了報告する

 これまでの実績から、上司からすれば「あ、今回の仕事はさすがに振りすぎたかな」とか「やはりこれは時間のかかる大変なタスクなのか」と思ってもらえるかもしれない。反対に、いつも即座に仕上げすぎると「なんだたいしたことない仕事なのか。すぐできるじゃん」と努力が伝わりにくい。

・作戦その2: 仕事請けの際に見通しを伝えてみる

 これまで誠実に仕事をしてきた実績のあるマコトさんなら、仕事を請けるときに上司に対して、「この仕事ですと、さすがに締め切りに間に合わせるのは厳しいですよ。人をつけてもらうとか、今抱えている仕事を他に振るとか、予算つけてもらうとかしないと……」と見通しを伝えてみます。これで実質的な負担を減らすこともできるだけでなく、「あの頑張り屋のマコトさんがそこまで言うってことはこれは大変な仕事なのか」と上司にも伝えることができる。

(マコトさんがたどれたらいいかんじの循環)

 ①むちゃな仕事を振られる 

  ↓

 ②’「ギリギリ許されるぐらいに仕事しても上司だって自分が断るよりは助かるはずだ」

  ↓

 ③これまでよりは緩めに仕事のスケジュールを組んで進める

  ↓

 ④そこそこの成果が出る

  ↓

 ⑤上司は期待を調整する「あいつはそこそこならできるな」

  ↓

 ①’そこそこに期待調整された仕事がくる

 いかがでしょうか。

 マコトさんは、上司から仕事を頼まれた時に恐る恐るこう言いました。

 マコト「この仕事ですと、さすがに締め切りに間に合わせるのは厳しいですよ。人をつけてもらうとか、今抱えている仕事を他に振るとか、予算つけてもらうとかしないと……」

 上司の反応がものすごく怖かったマコトさんですが、上司は多少残念そうな顔はしながらも、

 上司「そうか。君がそこまでいうのなら」

 そう言いながら人をつけてくれました。次の急な仕事のときには、マコトさん以外のもうひとりにも声をかけて「どちらかやってくれないか」と言われました。

 マコトさんは心の中で、「やっぱり前に自分が期待に沿えなかったから……失望されたんだ」と考えてしまい落ち込みそうになりましたが、慌ててこう考え直しました。

 マコト「違う違う、失望まではされていない。そもそも仕事振ってくれるし、これはいい期待値調整だったんだ。あのままいってたら過労死一直線だったじゃないか。いや、仮に失望されたってどうってことない」

 マコトさん、いいかんじです!

 みなさんも人の期待に振り回されすぎないでやっていきましょうね。

    ◇…

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