硯は陸と海の小宇宙 造形で魅せる、山口伝統工芸展最高賞の日枝さん
優れた伝統工芸作品を展示する第47回山口伝統工芸展(日本工芸会山口支部、朝日新聞社など主催)が14日まで、山口県萩市の県立萩美術館・浦上記念館で開かれている。最高賞の日本工芸会山口支部長賞と、朝日新聞社賞の受賞作品を紹介する。(松下秀雄)
日本工芸会山口支部長賞に選ばれたのは、宇部市の日枝陽一さん(50)の「円硯(えんけん)」。その名の通り、丸いかたちをした赤間硯(すずり)だ。
硯は、墨をする部分を「陸」、水を入れたり墨液をためたりする部分を「海」などと呼ぶ。
円硯を上からみると、円形の硯に、中心が異なるもう一つの円弧が重なり、陸と海を分けている。横からみても丸みを帯びたその造形は、「ぶつかった二つの球体を真っ二つに割ったイメージ」でつくったという。
「陸地があって、水辺がある。硯は小宇宙です」と日枝さん。中国では、水辺にすむカメなどの彫り物をする硯が多い。一方、彫り物よりも「かたちでみせ」て、中国にはない美術工芸品をめざすのが、日本の硯作家の流れだと解説する。
父の玉峯さん(77)は、宇部市の万倉地区で硯をつくる日枝玉峯堂の3代目で、県指定無形文化財の保持者。息子の日枝さんも硯の研究で博士号を取得しており、自身は「硯オタク」だと笑う。
玉峯さんが子どもだったころは、集落に30戸ほどの家があり、ほとんどが硯関係の仕事をしていた。いまは10戸ほどに減り、現役で硯をつくっているのは2戸だけという。
「やめていくのをみているから『守らなければ』と感じます。赤間硯の評判は高くなってきていて、海外からの問い合わせも増えていますが、つくり手が減って対応できていない状態です」
弟子を育てる。価値を高め、硯づくりで生活がなりたつようにする。そうして赤間硯を守れるよう、「私が引っ張っていかないといけない」と日枝さんは語る。
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朝日新聞社賞を受賞したのは、萩市の岡田泰さん(47)の「淡青釉鉢(たんせいゆうばち)」。
萩の土を使い、伝統的な萩焼に使う「白萩釉」という釉薬の上に、淡いブルーになる釉薬を二重にかける。下の白が透けてみえるような微妙な色合いだ。
淡青釉は、みずからつくり出した岡田さんの「代名詞」。もう14~15年ほど淡青釉を追求し、公募展に出品するときはこれで挑戦することにしている。
モチーフは萩の海だ。
「目の前に広がる日本海は透明感があって、ずっと見ていても飽きない。あの海の表情を作品に写し込みたい。ずっと見ていても飽きない作品をめざしました」
父は萩の岡田窯の8代目で、県指定無形文化財保持者の裕さん(78)。岡田さんは京都で陶芸を学んだあと、萩に戻って父の指導を受けた。
「自分の求めるものは、土と釉薬の調和による品のある美しさ。よい作品をつくって、同世代の仲間と協力しあいながら、400年以上続く萩焼をより多くの人に知っていただき、認知度を上げていきたい」
もっと高みをめざす。岡田さんはそう話す。
開館は午前9時~午後5時。入場料は一般・学生300円、18歳以下・70歳以上は無料。
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