100歳の女性「たまげた」 637年前の仏像、修復終わる

東野真和
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 「はあ、立派になった。たまげたなあ」

 近くに住む100歳の女性は、そう言うと、正座して畳に顔をすりつけるようにして拝んだ。前に鎮座するのは、岩手県指定文化財大日如来坐像(ざぞう)2体。300年ぶりの大修復を3年がかりで終え、3月、花巻温泉郷に近い花巻市湯本の白山神社大日堂に戻った。

 2体はどちらもカツラの木を使った坐像で、高さ150センチ余り。明治時代廃仏毀釈(きしゃく、仏教の排斥運動)から逃れるために神様として扱われた名残で、神社にまつられてきた。

 盛岡市の元高校教諭佐々木勝宏さん(62)によると、2体のうち1体は、南北朝時代、室町幕府の将軍が足利義満だった頃の1389年に作られた。地元の豪族・大畑時義が一族の繁栄と安泰を願って作ったものとされる。引き締まった体に理知的な表情が特徴だ。花巻市教育委員会によると南北朝時代の制作が明らかな坐像で、これだけ大きなものは県内にはないという。もう1体は、江戸時代の徳川綱吉が将軍だった1700年に作られた。南北朝時代の坐像の損傷がひどくなったことで、当時の住民らが寄付を集めて作った。

 今回の大修復は2021年から始まった。2体とも、腐食や虫食いなどが進み、東日本大震災で腕が外れるなどしていた。坐像の由来を調べて文化財指定にも携わった佐々木さんは、住民が修復したくても十分な資金がないことに心を痛めた。県や市に十数年、住民と共に要望を続け、費用1600万円のうち国・県・市で4分の3を、残りの400万円を住民が出し合うことが決まった。

 修復は、奥州市の文化財修復家那須川善男さん(50)が手掛けた。南北朝時代の坐像は、徳川吉宗が将軍だった1722年以来の修復。「注意して触らないと崩れ落ちてしまう状態」だったが、内部に背骨のような木を入れて体を支え、樹脂で固めたり、貝をすりつぶした胡粉(ごふん)を塗ったりした。

 2体のお披露目となった3月24日、集落の人たちは直会(なおらい、宴)を開いて祝った。「きれいな姿になるまで生きていて良かった」と涙を流すお年寄りもいた。

 集落では毎年3月と9月、住民がお堂に集まって坐像を拝んできた。その後に開かれる直会は、住民の楽しみだった。

 「別当」と呼ばれる坐像管理者でもある花巻市職員筑後貴之さん(56)も感無量の様子だった。「地域で守り、地域を守ってきた神様。長く拝み続けたい」東野真和

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