「知能」持つAI兵器が人間に投げかける二つの問い 結果責任は誰が

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 朝日新聞の連載「新世AI」で、「兵器編」(3月25日掲載)を担当しました。人工知能(AI)は軍事分野でも盛んに活用されています。過去を振り返っても、爆薬や機関銃、戦闘機といった当時の最先端技術が「戦争」で試され、その開発の動機や試行錯誤によって科学技術が前進してきたという側面は否定できません。一方で核兵器を例に挙げるまでもなく、新興技術が倫理的、道徳的な問題を投げてきたのも事実です。

 AIはまだまだ発展途上にあり、未来の姿を予想することは困難です。ただ、果たしてAIは、「戦時」や「平時」にどのような存在になろうとしているのかを探り、「人間」である我々に何を問いかけているのかを考えてみる。今回は、専門家へのインタビューなど取材を通じて感じたことを、「取材後記」としてお伝えしたいと思います。

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ウクライナとガザ 「AI兵器の実験場」に

 記事でも指摘したように、現在、「AI兵器の実験場」となっているのが、ロシアの軍事侵攻を受けているウクライナと、イスラエルが報復措置として侵攻しているパレスチナ自治区ガザです。

 小国であるウクライナが、強大な戦力で理不尽な軍事侵攻を続けるロシアに抗戦するのにAI兵器をフル活用しています。戦術面でみれば、AI兵器がその「非対称戦」を支え、大国にあらがう重要な役割を果たしていると言えるでしょう。

 一方、AI兵器は常に「弱者の道具」であるとは限りません。

 イスラム組織ハマスによるイスラエルの市民への攻撃の報復措置とはいえ、ハマス壊滅を掲げ、市民の巻き添えもいとわず、あらゆる建物を破壊するイスラエルの過剰攻撃は、国際法違反との指摘を受けています。その攻撃目標を選別するのに使われているのも、「ハブソラ(福音)」と呼ばれるAIシステムです。

 システムを導入した同軍のアビブ・コハビ前参謀総長は昨年6月、地元メディア「Ynet」のインタビューで「AIの力を借りて膨大なデータを、人間より効果的かつ迅速に処理し、攻撃の標的に変換する機械だ」と説明しています。

 イスラエルの調査報道メディア「+972マガジン」は、軍がハマスやイスラム過激派の幹部だけでなく、若手メンバーまで狙い、民間人の犠牲もいとわず熾烈(しれつ)な空爆を繰り返していると指摘し、ハブソラを「大量殺戮(さつりく)工場」と呼びました。

 さらに、こうしたウクライナとイスラエルの「AI戦」を支えているのは、当事国ではない、しかも国家でもない、米データ解析企業「パランティア・テクノロジーズ」という米国の一企業だというのも驚きでした。

 取材した日本の元政権幹部が「AIでは、民間企業が大きな役割を果たすというのが特徴だ。技術の発展を民間企業が担うことは理解できるが、国家の戦争すべきかどうかという判断が、企業の振る舞いによって左右されるということも起こりうる」と語っていたのも印象的でした。

 3月4日にスイス・ジュネーブで開催された自律型致死兵器(LAWS)規制をめぐる国際会議では、パレスチナ側が「AIシステムが戦争犯罪や大量虐殺を加速し、(途上国など)グローバルサウスの住民に向けて実験する可能性を強く懸念している」と訴え、強国が小国をAI兵器の「実験場」にしていると批判しました。

 

 「AI兵器」というと、映画「ターミネーター」のような殺人ロボを想像しがちですが、AIが暴走して人間を殺害するわけではなく、AIを組み込むのも、AIに指示を出すのも人間だということです。

 今回、サイバー戦やAI兵器に詳しく、米軍や国防情報局、連邦捜査局(FBI)のコンサルタントなども務めたピーター・シンガー米アリゾナ州立大教授にインタビューしたのですが、AI兵器は「知能」を持つという意味で、これまでの技術革新とは異なる道徳的な問題を投げかけているとして、「機械の許容性(machine permissibility)」と「機械の説明責任(machine accountability)」という二つの問題があると指摘しています。

なぜAIはこの回答を出したのか 理解できず、理由さえ分からない

 一つ目の「機械の許容性」と…

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