感情をかき乱すスキーマへの対処法 「過去と今は違う」を確かめる

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臨床心理士・中島美鈴
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 どうしても感情をかき乱される相手っていますよね。今回は、こうした相手から受ける影響を最小限にするために、何ができるかについてご紹介します。

 まずは、前回のおさらいです。ADHDの主婦リョウさん(仮名、40代女性)は、パンを配送する仕事をしています。昨年職場に入ってきた後輩Aさんに対して丁寧に仕事を教えてあげたのに、Aさんのがんばりが影響してリョウさんの担当が減り、収入減となってしまいました。

 そんなとき、後輩Aさんが沖縄旅行のおみやげにちんすこうをくれました。リョウさんはその場では受け取ったものの、家に帰ってゴミ箱に捨てるほど気持ちがかき乱されたのでした。

 前回は、リョウさんのように、「その出来事にそぐわないほど激しい感情がわく」背景には、「ああ、また私はがんばったのに報われないんだ」「どうせ愛されないんだ」というスキーマがあることを解説しました。スキーマとは、幼い頃の出来事を通して学んだ教訓のようなもので、「私は~だ」という形で表されるものです。

 そして、目の前の事実とスキーマとを区別する重要性について触れましたね。「これは目の前の事実もなかなかに悲惨だが、スキーマが刺激されたから、出来事以上につらいんだ」「もしかしたら、目の前の事実そのものは、私が今受け止めているよりは、多少マシなことなのかもしれない」と気づくことが大切なのです。

 今回は、その次にすることを紹介します。以下の二つです。

 ①今の自分の状況とスキーマができた当時の状況を比較する

 ②今の自分の対処能力とスキーマができた当時の自分の対処能力を比較する

 ひとつずつ見ていきましょう。

①今の自分の状況とスキーマができた当時の状況を比較する

 リョウさんには、今の状況(後輩Aさんに対して職場でこれまで自分が地道に築き上げてきたデータを元に仕事を親切に教えたのに、仕事を取られる結果となったこと)と、「がんばったのに報われない」「愛されない」というスキーマの生まれた当時の状況が似ているのか振り返ってもらいました。

 リョウ「やっぱり、覚えてるのは、夜中、夫婦げんかが始まった時だったなあ。子ども部屋で妹と2人で寝ていたんだけど、下から両親の声が聞こえると心配して眠れなかったなあ」

 リョウさんとは対照的に妹はすやすやと寝息をたてていました。

 リョウさんは「このままじゃ両親は離婚するんじゃないか。そしたら私たちは住む家がなくなって捨てられてしまうんじゃないか」と思っていました。

 幼いリョウさんにとって、両親のけんか→離婚→捨て子で路上生活のようなイメージがあったようなのです。

 リョウ「小学生の路上生活に比べると、今の職場でのAさんとの状況はそこまで深刻じゃないかも」

 確かに仕事を減らされて収入は減りましたが、小学生の頃にびくびくと布団の中で描いていたような悲惨な事態ではありません。

②今の自分の対処能力とスキーマができた当時の自分の対処能力を比較する

 次に、リョウさんには、今の自分がその状況に対してどのように対処できそうか、当時ならどうかを考えてもらいました。

 リョウ「小学生の頃、両親がけんかして、もし離婚して、私たちが捨てられてしまったら……。もう寝るところもなくて、働くこともできないし、食べるものもないし、泣くことしかできなかったと思う。そうならないように、リビングに行ってけんかを仲裁していたのだけど……」

 リョウ「でも、今は自分でマンションも借りているし、結婚して子どももいるし、働けている。収入は確かに減ったけど、起こったことは、それ以上でもそれ以下でもない。イラッとするけど、小学生の頃のように生きるか死ぬかの事態ではない。今の自分なら対処できる」

 そうなんです。

 スキーマは私たちを一瞬にして過去に引き戻します。そしてその当時の感情をありありとよみがえらせるのです。でもこのように冷静に考えると、多くの状況が「当時ほど悲惨ではない状況」もしくは「当時より自分も成長して対処できるようになっている」場合が多いのです。

 リョウ「要領のいい後輩Aさんを見てると、ついついスキーマのせいで心の非常ベルが鳴ってしまうけれど、実際そこまで悲惨なことは起こっていないし、私なら対処できる」

 もちろん、これらのプロセスのあと、リョウさんはもう少し主張をしてもいいかもしれません。「もう少し私の持ち分もちょうだいよ」などでしょうか。上司に相談してみてもいいでしょう。もしかしたら、両親と同じように上司も後輩Aさんだけをひいきにするかもしれませんが、まだやってみないとわかりません。スキーマの罠(わな)にハマって最初からあきらめるには早いのです。

 そう思えると、少しだけ心にゆとりがもてませんか。

 古傷がうずく瞬間があれば、ぜひお試しください。

    ◇…

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