「所在不明の名品」修復へ 源頼朝由来のびょうぶ絵 鳥取の美術館

ライター・田中泰子
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 かつて「所在不明の名品」と言われ、今は鳥取市の渡辺美術館が所蔵する「曽我物語図屛風(びょうぶ)」が今春、鳥取県の助成などを活用して修復されることになった。400年以上前に描かれたと推定される屛風で、作者は桃山時代の土佐派を代表する絵師、土佐光吉の可能性が高いとされるが、経年劣化などによる損傷が問題になっていた。2年かけて修復し、再び展示する予定だ。

 曽我物語図屛風は、曽我兄弟のあだ討ちで有名な鎌倉時代の軍記物「曽我物語」を題材にする屛風絵。源頼朝が行った「富士の巻狩(まきがり)」をテーマに多くの人馬と動物を描いた右隻(縦155・1センチ、横358センチ)、兄弟による父のあだ討ちの様子を展開する左隻(縦155・3センチ、横358センチ)から成る。

 土佐光吉は、平安時代に日本で生まれた大和絵の代表的な画派である土佐派の絵師。室町末期に途絶えた土佐派を継承・発展させ、その作品は重要文化財にも指定されるなど、日本美術史上高い評価を得ている。

 渡辺美術館によると、曽我物語図屛風は1961年ごろ初代館長の渡辺元さんが入手したとみられるが、詳細はわかっていない。2006年の収蔵品の調査で、県文化財保護審議会の委員だった大阪大の泉万里教授の目にとまり、研究者の間で長らく「所在不明の名品」とされていた屛風であることが確認された。光吉の代表作ともされ、多くの研究者らが報告書や研究論文を発表している。22年には県の保護文化財に指定された。

 一方、所蔵した渡辺美術館が修復にかかる多額の費用を捻出できないまま保管していた結果、長い月日の経過とともに劣化が進行。全体的に変色が見られ、絵の具や金箔(きんぱく)がはがれたりカビや汚れも目立つようになったりするなど、損傷が激しくなっていた。

 4月以降、国宝や重要文化財を多く手がけている京都市の業者に託し、本紙の修理とすべての裏打ち紙、下地などを取り換える完全解体修理を実施する。事業費は約1千万円と見込まれ、県や市の補助のほか、朝日新聞文化財団の助成でまかなう。

 渡辺美術館の高田正規事務局長は「国内で見ても土佐派の重要な作品。本来のきれいな色彩で後世に残し、いろんな人に見てもらいたい」と話している。(ライター・田中泰子)

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 〈渡辺美術館〉 鳥取市出身で渡辺病院の医師であった故渡辺元さんが1978年に開館した。精神科医の傍ら、昭和初期から甲冑(かっちゅう)や屛風など古美術品を中心に収集。今では日本画や陶器、鳥取藩主・池田家ゆかりの品々など3万点以上の美術品を所蔵している。

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