第29回戦場で拡大するAI兵器 ピーター・シンガー教授が問う道徳と責任

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聞き手 編集委員・佐藤武嗣
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 急速に発達する人工知能(AI)が軍事と結びつき、戦場でも本格的に活用されている。AIは、従来の戦い方をどのように変えるのか、それに伴い、人類に突きつけられる倫理面での課題は何か。AI兵器やロボット戦に詳しい戦略家で米アリゾナ州立大教授のピーター・シンガー氏に聞いた。

     ◇

 ――人工知能(AI)の出現は、軍事にどのような変化をもたらすのでしょうか。

 「ソフトウェアとしてのAIの出現と、ハードウェア面でのロボット工学へのAIの応用は、産業革命に匹敵する。歴史を振り返れば、第1次世界大戦や第2次世界大戦で起きたテクノロジーは、エンジンや機関銃、航空機、無線通信、そして原子爆弾に至るまで大きく変化し、戦争の戦い方やイデオロギーにも変化をもたらした」

 「(第1次大戦が始まった)1914年の機関銃や(第2次大戦が始まった)39年の戦車や航空機の役割よりも、AIとロボット工学の発達が与える戦争への影響は、はるかに大きい。高い知能を持ち、より自律した兵器が登場し、従来と全く異なるテクノロジーだからだ。この技術は『ブラックボックス』になりつつあり、我々が理由を理解できないまま、(独自に)意思決定を下すだけでなく、その理由を効果的に伝えることさえできない」

 ――「ブラックボックス」とはどういう意味ですか。

 「専門用語では、これを(なぜそうなのかを説明しない)『説明可能性問題(explainability problem)』と呼ぶこともあれば、(誤った回答をする)『幻覚問題(hallucination problem)』と呼ぶこともある。ChatGPTチャットGPT)の場合を考えてみれば、事実に基づかない回答が示されることがある。例えば、AIシステムに『子供たちを連れて行くのに、お薦めのスポーツ観戦は』と尋ねれば、実在するスタジアムで実在する二つのチームの試合の観戦を薦められたが、その日は試合が行われていなかった。なぜ、AIがその試合の観戦を薦めたのか、理由すら教えてもらえず、科学者もその理由が分からない」

 「知能を持った自律型兵器のようなAIは、機関銃や航空機よりもはるかに大きな影響を与える。産業革命では、これまで不可能だったものを可能にするだけでなく、以前は向き合うことのなかった善悪の問題を我々に問いかけた。AIやロボット工学でも、経済から普段の生活、戦争に至るまで、AIがどのような役割を果たすべきかを議論するなかで、明らかに同じことが起きている。新たな法的、倫理的、道徳的、政治的な問題が起きている」

 ――AI兵器は戦場でどのような役割を果たしているのでしょうか。

 「AIは、市民生活と同様に意思決定の補助として戦場で使われている。進軍のルートや、攻撃目標の選択、推奨される軍事行動を提示し、これが(イスラエルによる)ガザでの戦闘(のあり方)をめぐって論争を引き起こしている」

 「(医師による)遠隔手術や、(教師による)遠隔授業のように、米国のネバダ州にいるパイロットがアフガニスタン上空の航空機を操縦する『遠隔戦争』も可能にする。ヒト型ロボットと労働者が一緒に働く自動車工場のように、戦場においてもパートナーのような存在になり、戦場で兵士に随伴するロボットから、パイロットを支援するロボット僚機、第2次世界大戦時の駆逐艦の大きさに匹敵し、海軍機動部隊の有人艇と並走する大型無人水上艦に至るまで、ロボットシステムの試験が行われている」

ソーシャルメディアでの認知戦 AIを重視する中国

 「ロボット兵器は、人間の代理として、独自の行動をとり、昆虫や鳥のように互いに連携し、複数の群れで独自の行動を実行することも可能だ。米軍だけでなく、中国軍やロシア軍、自衛隊など主要国で、様々なタイプのAI兵器の開発・研究が行われている」

 ――ロシア・ウクライナ戦争…

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