奈良がわかる! 富雄丸山古墳・木棺に眠るのは女性?

今井邦彦
[PR]

 はなくいどり 昨年、巨大な蛇行鉄剣や盾の形をした銅鏡の出土が大きな話題になった奈良市の富雄丸山古墳で、また大きな発見があったようだね。現場の一般公開にたくさんの人が来ているのをニュースで見たよ。棺(ひつぎ)に葬られていたのは女性の可能性があるんだって?

 A 発掘調査をしている奈良市埋蔵文化財調査センターの鐘方正樹所長が、報道発表の際にそんな見解を披露したんだ。富雄丸山古墳は直径約109メートルの円墳に、「造り出し」という方形の突出部が付いた形をしている。今回発掘されたのは、造り出しで見つかった、全長約5・6メートルの丸太をくりぬいた木棺を粘土で覆った「粘土槨(かく)」だ。

 は 古墳の頂上じゃなかったんだね。

 A そうなんだ。でもこの古墳には、頂上部にも全長約6・9メートルと一回り大きい木棺の粘土槨があった。頂上部の被葬者は男性、造り出しの被葬者は女性で、二人はきょうだいだったのではないか、というのが鐘方さんの見方だ。

 は 葬られていた人の性別が、どうして分かるの?

 A 腰など男女差がある部位の骨が残っていれば見分けられるし、骨からDNAが採取できればそこからも分かる。そうした研究の積み重ねで、副葬品によって性別がある程度分かるようになってきたんだ。

 は へえ! 男女でどんな違いがあるのかな。

 A 弥生時代古墳時代の墓を研究している清家章・岡山大教授によると、鉄製武器の中でも矢じりと甲冑(かっちゅう)が副葬されるのは男性、石製の腕飾りを着けた状態で埋葬されたのは女性だという。一方、刀剣には魔よけの力があるとして、男性の墓にも、女性の墓にも副葬されたようだ。

 は 富雄丸山古墳の二つの粘土槨は、それに当てはまるの?

 A 頂上部の粘土槨は、1972年に発掘調査された。明治時代に盗掘されて、主要な副葬品はなくなっていたけれど、鉄や銅の矢じりが出土した。被葬者は男性と推定できそうだ。

 一方、現在調査中の造り出しの粘土槨は未盗掘だったけれど、棺の中にあった副葬品は、今のところ銅鏡3枚と髪に挿す竪櫛(たてぐし)9点だけ。決め手になる腕飾りはなく、竪櫛は男性にも副葬されるもの。だけど、武器がまったくないのは珍しく、被葬者が女性の可能性が指摘されているよ。

 は その二人がきょうだい、というのは?

 A 同じ古墳に複数の人が葬られていて、骨や歯が残っていた場合、歯の形に共通点があり、近い時期に埋葬されたケースが多い。血縁があり、同じ世代だとすると、きょうだいの可能性が高い。富雄丸山古墳の二つの粘土槨も、ほぼ同時期のものだそうだ。

 は 造り出しの被葬者が女性だとしたら、彼女の地位も高かったのかな。

 A 棺の中から見つかった銅鏡の種類はまだ不明だが、3枚という数は当時の副葬品として決して少なくない。この人物の地位もそれなりに高かった可能性がある。古墳の頂上に眠る男性が政治や軍事、造り出しに眠る姉か妹が祭りやまじないなど祭祀(さいし)を分担していた、とも想像できるね。

 は ずいぶん具体的だけど、そんな例があるの?

 A 中国の史書「魏志倭人伝」によると、邪馬台国の女王・卑弥呼は「鬼道」という宗教に通じた巫女(みこ)的な女性だったが、その弟が補佐役を務めていたという。古墳の副葬品からも、軍事には男性だけが関わったと推定できる。男女のきょうだいで女性が祭祀、男性が政治や軍事、と役割分担をして地域を治めることは珍しくなかったのかもしれないよ。

    ◇

 オシドリの「はなくいどり」は朝日新聞奈良総局の公式キャラクター。正倉院宝物にも描かれた吉祥文様です。花をくわえて、最新のニュースや身近な話題を求めて県内を飛び回ります。今井邦彦

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【締め切り迫る】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら