自己犠牲、王イズム継承、寄り添う、挑む3人の新監督 プロ野球開幕

堤之剛 鷹見正之 笠井正基
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 プロ野球は3月29日、セントラル、パシフィックの両リーグが開幕する。プロ野球誕生90年の今季は、新たに3人の監督が指揮を執る。球界の盟主・読売ジャイアンツ(巨人)の阿部慎之助監督(45)、「王イズムの継承」を掲げる福岡ソフトバンクホークス小久保裕紀監督(52)、球団創設20年を迎える東北楽天ゴールデンイーグルス今江敏晃監督(40)。近年優勝から遠ざかる3球団、新監督の下で躍進なるか。

 「勝利のために自己犠牲ができる選手を起用する」「成績だけの昇降格はしない」

 昨秋就任した巨人の阿部監督は、方針などを端的に明示したクレドカードを配布した。選手、コーチ、スタッフと、チームに関わる全ての人間がこれを携える。

 捕手出身の45歳は言う。「フロントも一緒になって同じ目標に向かって頑張ってもらいたい」。目線をそろえ、結束する。

 2年連続Bクラスのチームにまず求めたのは、選手の「技術アップ」。昨年のチーム本塁打数は、優勝した阪神の約2倍の164を記録した。だが、総得点は32下回り、チーム防御率はリーグ5位の3・39。勝負どころでつながらない打線に、抑えきれない投手力……。個々の底上げが必須だ。キャンプではチームプレーよりも、投打とも個人練習に時間が割かれた。

 ただ、阿部監督が選手に声をかけることは少ない。競争をあおる言葉も発しない。「(自分の課題が)分かんなかったら1軍にいなくていい」「突き上げてまでやらそう、まではね。プロですから」。重視するのは、選手自身が置かれた立場を踏まえ、考えて行動すること。オープン戦でセオリー外のプレーを目にした際は、「プロ野球を知らない選手がいた」と苦言を呈した。

 新人や新加入選手に絶妙なタイミングで助言し、2、3軍も視察するなど、もちろん配慮は欠かさない。厳しさはすべて、2012年から遠ざかるチームの「日本一」達成のためだ。

 指揮官として迎える初めてのシーズンを「旅」に例える。「色んな不安がたくさんでてくると思うけど、みんなに力をもらってアドバイスをいただいて、仕事を全うしていきたい」

 一丸で、頂点に挑む。(堤之剛)

 「王イズム」を継承し、強いホークスを取り戻す。そんな理想を追い求めつつ、まずは勝つために現実路線を突き進む。今季から指揮を執る福岡ソフトバンクホークスの小久保裕紀監督(52)は、理想と現実の「両輪」でチームづくりを進めている。

 1軍ヘッドコーチを1年間経験し、昨季まで2軍監督を2年間務めた。「内部」からチームを見てきた経験は大きい。「課題は投手陣の立て直し。特に先発陣だ。下(2軍)から見ていて、やり繰りが苦しいのが分かった」と話す。

 リーグ3位に終わった昨季、救援陣の防御率はリーグトップの2・68と安定したものの、先発陣の防御率はリーグ5位の3・63と低迷した。4年ぶりのリーグ優勝に、「投手王国」の再建は不可欠だ。

 昨秋には、倉野信次投手コーチとともに各投手に求める役割を伝え、それぞれの目標を明確にした。2月に宮崎市であった春季キャンプでは連日ブルペンに足を運ぶなど、仕上がり具合を自ら見て回った。

 足元を固めつつ、一方で、理想も忘れない。ダイエー、ソフトバンクで主砲として活躍した現役時代、監督だった王貞治会長から薫陶を受けた。

 「『手本になれ』と言われた。主力が先頭に立ってチームを引っ張り続けること。勝つために、同じ方向に向かっていくなかで主力が手本になるという意識は欠かせない」

 監督就任早々、「レギュラーは近藤と柳田だけ」と公言し、開幕ローテーションには有原、和田を指名した。投打の屋台骨が、中堅や若手を引っ張ることを期待している。

 小久保監督は「王会長が監督時代に築かれた『イズム』を継承しながら、いま一度チームに浸透させたい」。見据えるのは優勝だけではない。「常勝軍団」の復活だ。(鷹見正之)

 12球団の監督で最年少となる40歳。楽天の今江監督は、選手目線を大切にする姿勢をコーチ時代から貫く。

 「選手がグラウンドでパフォーマンスしてくれるのが一番。(選手に寄り添う信念は)絶対変えない」

 チームは昨季、クライマックスシリーズ進出がかかったペナントレース最終戦で敗れ、2年連続の4位に沈んだ。「ここぞという場面での割り切りや思い切りが欠けていた」という無念さが出発点にある。

 抑えの松井裕が大リーグ・パドレスに移り、安楽はパワーハラスメント行為で自由契約に。変革期にあるなか、積極的な補強があったわけではない。どちらかといえば、若手より、くすぶる中堅やベテランの奮起を促してきた。

 色がにじんだのが、初の対外試合となった2月11日の日本ハム戦。若手主体ではなく、ともに34歳の阿部や鈴木大らが並んだ。「メッセージを読み取ってほしい」と多くを語らないが、横一線で結果を求め、脱落すれば若手にチャンスを与える。そんな競争スタイルを持ち込み、チーム力の底上げを試みる。

 理想の監督像はロッテ時代のバレンタイン氏。「『チームはファミリーだ』と家族のように接してくれた。時に厳しく、時に優しく。苦しい場面に助け合い、家族のような信頼し合えるチームにしていきたい」。恩師の教えで胸に刻まれているのがファンサービスだ。「僕らは勝つのが第一。応援してくれる人が増えることによって選手の自覚が出てくる」

 球団創設20周年の今季、「頂点」を目標に掲げる。中学時代から掲げるという言葉で、「なかなか難しいのは分かっている。みんなが一つにならないと頂の景色は見えない」。昨季の観客動員数は12球団ワースト。あらゆる面で、チーム再生の重い使命を背負う。(笠井正基)

プロ野球の過去10年の優勝チーム

   セ・リーグ パ・リーグ  日本一

2014 巨人    ソフトバンク ソフトバンク

 15 ヤクルト  ソフトバンク ソフトバンク

 16 広島    日本ハム   日本ハム

 17 広島    ソフトバンク ソフトバンク

 18 広島    西武     ソフトバンク

 19 巨人    西武     ソフトバンク

 20 巨人    ソフトバンク ソフトバンク

 21 ヤクルト  オリックス  ヤクルト

 22 ヤクルト オリックス   オリックス

 23 阪神   オリックス   阪神

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