「完全に素人」からベンチ入り 阿南光の藤崎、誰よりも楽しむ夢舞台
2年前、自分が甲子園に立っていることは想像していなかった。
阿南光の藤崎健(つよし)(3年)は「本当に夢みたい。信じられないですけど、幸せです」。
水泳部だった中学3年生のとき、夏の甲子園に阿南光が出場した。「地元の高校が甲子園に出ているのを見て、かっこいいと思った」
小さいころからプロ野球・阪神タイガースのファンクラブに入り、甲子園には父と何度も試合を見に行っていた。プロの選手が活躍する舞台で、地元の選手が白球を追う姿にあこがれた。
「もし阿南光に行ったら、自分も甲子園に行けるかも」
野球の経験は小学2~4年に地元の野球チームに所属していた3年間だけ。ブランクは5年。しかも軟式の経験しかない。だけど、野球部に入ると決めた。
阿南光に入学後、担任だった岩前涼也部長(29)に「野球部の体験に行きたいんですけど」と告げた。自身の野球歴を伝えると、岩前部長は驚き、諭された。
「気持ちはわかる。でも、硬式は頭に当たったら大けがをするから、相当強い気持ちがないと入れさせられない」
藤崎の代は、エースの吉岡暖(はる)、捕手の井坂琉星、ショートの矢藤颯太らヤングリーグの全国大会で優勝した「徳島阿南シティホープ」の選手たちがそろう。
「完全に素人レベル」と自負する藤崎は、それでも岩前部長に何度も「野球部に入りたいんです」と言った。すると、近くで聞いていた井坂らが「野球やりたいん? なら、一緒にやろうや」と誘ってくれた。
迎えた最初の練習は、1人だけ体操服だった。藤崎だけ全く別のメニューを与えられ、転がすボールを捕ったり、走ったりという「基礎中の基礎」を繰り返した。入学時は体重42キロと細く、筋力トレーニングのベンチプレスで使う重さ20キロのバーベルを持ち上げることも難しかった。
それでも、仲間はずっと応援してくれた。
下級生から主力の福田修盛は、全体練習が終わった後もマンツーマンで練習に付き合ってくれた。バットの振り方や、足の出し方まで丁寧に教えてくれた。
藤崎は言う。
「誰もばかにしないし、優しい。みんなで一つのことに向かって努力するのが楽しい」
ご飯をたくさん食べて、体重は61キロまで増えた。昨秋の練習試合では、三塁前へのぼてぼてのゴロで一塁にヘッドスライディングし、内野安打になった。高校に入ってからの初ヒットだ。
藤崎について、吉岡が「成長スピードがすごい。いるだけでも盛り上がる」と言えば、高橋徳(あつし)監督(41)は「みんなが『きつい、きつい』とこぼす中で、1人だけ『楽しい』と言う」と笑う。
藤崎は、秋の徳島県大会で悲願のベンチ入りを果たした。
「背番号17、藤崎健」
高橋監督に呼ばれた瞬間が忘れられない。自転車で50分かかる自宅まで、急いで帰った。母は大喜びで「おめでとう」と言ってくれた。
今大会は「19」になり、選手25人中20人のベンチ入りメンバーに選ばれた。「ベンチキャプテン」に任命され、主力をサポートする。勝利した豊川(愛知)との1回戦は、誰よりも声を出し続けた。
「努力をすれば成果がでる。野球をやってよかった」
この選抜大会も、誰よりも楽しむつもりだ。(室田賢)