宇都宮のLRTが運ぶ地域の好循環 中心市街地への移住も増加

和歌山大学経済学部教授
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足立基浩のまちづくり講座

 先日、宇都宮市(人口約51万人)で「ローカルファースト」をテーマにしたシンポジウムが開催され、著者も議論の進行役として参加した。「ローカルファースト」とは「地元のお店でお買い物」を目標の一つに掲げるなど、地域内経済循環に注目したまちづくり手法である。今回のテーマは「ローカルファーストな交通まちづくり」であった。

 なお、宇都宮市では、昨年8月に「ライトライン(現代風にアレンジされた路面電車、通称LRT)」が中心市街地に導入され、毎日のように全国から視察団が訪問するなど注目が集まっている。シンポジウムで基調講演された佐藤栄一市長の卓話が大変参考になるので以下ご紹介したい。

 地方交通ではバスが主流の時代、宇都宮市があえて路面電車の導入にこだわった理由は何なのか。佐藤市長はLRTがもたらす「効率的な点(時間通りにほぼ駅に到着)」「排ガスを路上に出さないために都市空間の空気がきれいになる点」、そして「ガソリン依存社会からの脱却などの点」を挙げられた。

 路面電車の導入には多額のコストがかかるが、自治体が導入コストのすべてを支払う必要はなく、国がインフラコストのかなりの部分を負担してくれたという。路面電車の運行などの「上もの部分」については宇都宮市が担当し、路線の敷設や工事については国の補助金などの負担でこれを整備。地元行政側は初期コスト負担を大幅に節約できたのである(こういう手法を上下分離方式というが、宇都宮市は今回はこれを採用)。

 さらに、LRTの発着場に隣接する、ガラス張りの会議場「ライトキューブ」を整備した。ライトキューブは緑や公園を意識したつくりで、若者、特に女性の視点を重視した。市長いわく、流行に敏感といわれる女性の視点を重視したまちづくりを実行すれば、おしゃれな空間が誕生し、老若男女も集まるという。車両も少し目立つ黄色い車体を基調とし、ヨーロッパ各地で走っているようなモダンなもので、高齢者に優しい乗車する際に段差がないバリアフリーとなっている。

 このライトラインの利用者は休日に関しては1日あたり1・1万人~1・2万人と当初予測(4400人)を大幅に超えることとなった(平日は通勤通学を中心に1・3万人)。昨年11月15日には利用者の累計が100万の大台に到達した。沿線周辺の地価も上昇し、路線周辺への移住者も増え、地域内での消費が増えたという。また、今回のLRT導入がきっかけとなり、中心市街地への移住者も増えつつあるという。

 著者は以前より和歌山市内でのLRTの導入が可能であるか否かについて研究を行ってきたが、今回のシンポジウムの参加により、その可能性が高いことを実感した。佐藤市長は「和歌山市の人口規模でも十分可能だ」とおっしゃっておられたが、そのためには、まず市民・住民内で勉強会を開くなど機運を高める必要がある。そして、宇都宮市での経験を参考にしながら、和歌山市の人口規模(約35万人)での導入の可能性について、費用便益に関するシミュレーションを行う必要があろう。(和歌山大学経済学部教授)

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