今春のセンバツで新導入の「低反発バット」 出場チームの対策は様々
18日に阪神甲子園球場で開幕した第96回選抜高校野球大会では、事故防止や投手の負担軽減のために金属製バットの基準が変わった。
これまでより低反発で、打球が飛びにくくなる。出場校は様々な対策を練ってきた。
愛工大名電(愛知)の低反発バット対策は「打球角度15度」を合言葉としている。
練習で分析機器を使って集めたデータを活用するのは、野球部に3人いる解析担当の「アナリスト」たちだ。
アナリストの野球部員たちはプレーをせず、データ分析を専門としている。休日と平日は週2日、練習に参加。4種類以上の分析機器を使い、データの計測や分析をする。
アナリストの一人で3年生の早川孝介さんは「打撃のたびに、選手には打球の角度や速度を伝えています」。
合言葉の「打球角度15度」の狙いは、鋭い打球で内野と外野の間に落ちる安打をめざすためだ。
分析機器では、スイングの角度や速度、さらには立体的にバットの軌跡も確認できる。トス打撃でも推定飛距離が算出されるという。集めたデータを基に、アナリストやコーチが選手へ個別に助言する。
中軸を担う石見颯真選手は、低反発バットを使い、16日の練習試合で場外本塁打を放った。芯に当たった感覚は、従来のバットとあまり違いがなかったと話す。
倉野光生監督によると、分析機器の一部は卒業生で野球日本代表(侍ジャパン)入りしたプロ野球・広島東洋カープの田村俊介外野手が寄贈してくれたものだという。
その後は分析機器を増やし、田村選手を始め近年に甲子園で活躍した卒業生たちの数値を蓄積した。その数値を現在の部員と比べながら、先輩たちに追いつこうと練習を重ねている。
木製バットを検討したことも
昨秋の中国大会を制し、春の甲子園に3年連続出場となる広陵(広島)は、木製バットの使用も検討したが、最終的に低反発バットを全選手が使うことにした。
3月初めにあった練習試合では、主軸を打つ土居湊大(そうた)と只石貫太の両選手が、木製バットで打席に入った。「この2人の打力なら、木製の方が飛距離が出る」と中井哲之監督が判断。その言葉通り、2人とも打球をフェンス近くまで飛ばした。
試合後に感想を聞くと、土居選手は「木の方が飛ぶ感覚がある」。只石選手は「芯に当てる技術があれば木の方が良い」と言いつつも、「内角の球を打つ時、バットが折れるかもという不安を感じる」と口にしていた。
約1週間後の3月10日の練習試合で、2人が選んだのは低反発バットだった。「木は折れる不安があり、金属製バットの方が振り切れる」と中井監督。この間、4本あった木製バットのうち1本が折れてしまったという。
低反発バットの感触について、土居選手は「バットの芯から少し外れても、金属バットの方が安打になりやすい」と言う。ただ、浜本遥大(はると)選手は「芯を外すと、打球が伸びない。ミート力が求められている」と話す。
守備強化のチームも
熊本国府の就任3年目で31歳の山田祐揮監督は、約2年前から低反発バットの導入を意識し、守備中心の練習を組み立ててきた。
低反発で打球が飛ばなくなれば、「点が取りにくくなる。徹底的に守備を鍛え、失点を抑えたほうがいい」との考えからだ。
マウンドにバッティングマシンを据え、実際の打球や走者の動きに対応する「実戦形式」の練習に、練習時間(約2時間)の半分以上(1時間以上)を割いてきた。山田監督が自らマスクをかぶり、捕手として声をかけ、全体の守備に目を光らせることもある。
高知の川村光輝主将は、低反発バット対策として冬の間は打撃練習が多くなったという。従来のバットは逆方向の飛球が伸びていたが、それがなくなった。バントやエンドランなどで確実に走者を進め、好機に1点を取る地道な野球を大事にする。
浜口佳久監督は新バットで打撃は苦しくなるというが、「正しい打ち方、芯に当てることが求められる。将来、木のバットを使うときや、投手のレベルが上がったときに役に立つと思う」と肯定的にとらえる。
辻井翔大投手は「新しいバットは(球を捉える)芯が細くなって飛ばなくなった分、インコースなど芯を外せる球を投げていれば、投手の可能性は大きくなる。自分たちが鍵になる」と語る。
昨秋から実戦で使うチームも
積雪のため冬場に屋外練習ができない北海(北海道)は、昨秋の明治神宮大会に低反発バットで出場。関東王者の作新学院を相手に延長タイブレークで1―2で敗れたが、全国の舞台で試せたことは大きかったようだ。
北海野球は走者が出ればどの打順でも犠打で得点圏に進め、1点をもぎ取って守り切る伝統的な高校野球スタイル。道高野連の関係者には「長打が出にくいとされる低反発バットでは、北海のロースコア野球が有利に働くのではないか」という見方は多い。
冬場は積雪のためグラウンドではボールが使えない。冬はグラウンドでのクロスカントリースキーや除雪作業をするのが伝統だ。
こうした体力づくりと並んで、この冬は低反発バットへの対応を重視した打撃練習にも取り組んだという。金沢光流主将は「最初は戸惑いがあったが、低く強い打球が打てるようになってきた」と話す。(渡辺杏果、根本快、興津洋樹、鈴木芳美、佐々木洋輔)
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