津波の猛威、「逃げるしか」 のみ込まれた元消防士は今も自問

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小幡淳一
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 岩手県宮古市田老の高台にある常運寺に、多くの犠牲者が眠る。元消防士の小林徳光さん(63)は11日、13年前を思い出しながら灯籠(とうろう)のろうそくに火をともしていた。

 あの日、自分をのみ込んだ津波はすさまじい勢いだった。体が浮き、どちらが上か下かも分からなくなり、左手でつかんでいた男性の姿も消えた。

 自責の念は、今も消えない。生死を分けた境目は何だったのか。なぜ多くの人は逃げ切れなかったのか。

水中で回転した体

 宮古消防署田老分署に勤務する消防士だった。大きな揺れに驚いて外に出ると、空は赤みを帯び、鳥たちは異様な飛び方をしていた。

 「津波だ。逃げろ!」

 分署長が叫んだ。津波はすぐそこまで迫っていた。杖をつきながら歩くお年寄りの男性に気づき、とっさに左腕で抱え込んで走り出した。

 水位が上がって行き場を失いそうになった時、コンクリートの上のフェンスを右手でつかんだ。水かさが増して頭のてっぺんまで沈む。目を閉じ、まぶた越しに光を感じながらこらえた。体が何度も回転した。

 「もうダメかな」。息が出来…

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