コウノトリ観察記 子育て環境の変化

根岸敦生

 栃木、茨城、埼玉、群馬の4県に広がる渡良瀬遊水地にコウノトリが飛来し、東日本初の自然繁殖をしたのは、2020年だった。毎年、コウノトリの様子を観察してきたが、今年は様子が異なる。何が起きているのか。

 遊水地に最初にすみ着いたのは、千葉県野田市生まれの「ひかる」(雄7歳)だった。最初のペアの相手は徳島県鳴門市生まれの「歌」(雌2歳)。「歌」が事故で死ぬと、代わって野田市生まれの「レイ」(雌4歳)がパートナーになり、21年から毎年2羽ずつ計6羽を産んだ。

 この3年、卵を抱き始める時期は2月下旬から3月初めまでだった。今年は巣塔の上などで交尾をする様子は観察されるが、「レイ」がすぐ巣を離れてしまい、産卵の気配はない。

 コウノトリは一夫一妻制で、ペアは死ぬまで添い遂げる。この冬、目に付くのは、「ひかる」と「レイ」が個別に行動する時間が長かったことだ。

 実は昨年、「ひかる」と「レイ」は餌探しに苦労していた。遠方まで探しにいく姿がよく見られ、2羽ともやせ細っていた。

 この地をめざしてくる個体数は増えたが、採餌(さいじ)環境は厳しさを増しているようにみえる。理由のひとつは、巣塔近くの与良川の排水機場の工事だろう。堤防際の水路が整備されて川の流れが減り、餌になる魚などが遡上(そじょう)してこなくなったようだ。

 生態系の変化もある。食物連鎖の頂点に立つコウノトリがやってきて以来、渡良瀬遊水地内ではブルーギルなどの外来種が減った。小山市下生井では一昨年来、ウシガエルも減っているようだ。オタマジャクシのころから、コウノトリの餌になっており、地元では「食べ尽くしたのではないか」という話を聞く。

 渡良瀬遊水地は国際的に重要な湿地である「ラムサール条約湿地」に登録されたとはいえ、新潟県の佐渡でのトキ、兵庫県豊岡市でのコウノトリなどの例を見るにつけ、自然環境を守るには地元の理解と協力が欠かせない。

 小山市が整備を進めるというビオトープや、田んぼの一部に常に水をたたえて水生生物を繁殖させる「江」の整備もこれからだ。周辺の市町が協力し、コウノトリを支える環境の整備に取り組む段階を迎えている。(根岸敦生)…

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