1月の能登半島地震では、地震の揺れによる建物倒壊、土砂崩れや液状化、津波、火災など、多種多様な被害が生じた。海岸が大きく隆起したことも注目を集めた。
「地震で起こる現象や被害が、一通り現れたのが、今回の地震の特徴」。地元の専門家として石川県の防災に携わってきた金沢大の青木賢人准教授はこう語る。
青木さんは地理学、地形学や地域防災を専門にする。県の津波防災や学校防災のアドバイザーとして、能登半島にも繰り返し通ってきた。住民に向けた講演では、海底に活断層があること、これが動けば大きな揺れが襲い、津波がすぐに来ることを伝えてきた。
地震後は今後の復興のことも視野に、現地調査を続けている。地域をよく知る専門家の目に、被害はどう映るのか。2月下旬、調査に同行した。
干上がった「塩水プール」
この日、まず目指したのは、輪島市中心部近くの海岸にある「鴨ケ浦塩水プール」だ。
岩礁を掘り込み、海水が自然に入るように造られた屋外プールで、水泳に使われてきた。その希少さが認められ、2018年に国の登録有形文化財になった。
しかし、プールへと通じる海岸沿いの道路は土砂崩れで通行止めになっていた。反対側のルートから近づこうとしても、やはり岩盤が崩れ、多数の岩が道をふさいでいた。大きな余震が来れば、さらに崩落しかねない。
ただ、付近は隆起によって海岸線が沖側に移っている。この新たな陸地を歩いて回り込めば、近づけそうだ。
隆起でできた陸地は、全体的に白くなっていた。「白く見えるのは、石灰分を含む海藻が枯れたものです」と青木さんが解説した。
足元の岩に目をやると、海藻や貝殻がびっしりついている。元々波に洗われていた岩礁とは明らかに見た目が違う。2カ月前まで、まさにここは海底だった。
たどり着いた塩水プールは、完全に干上がっていた。
プールの縁には1~6のコース番号が振られ、手すりも取り付けられている。プールの内壁についた貝殻が、ここが海水で満たされていたことを示していた。隆起とともに抜けてしまったのだろう。
海岸との間には、入り江をまたぐための歩行者用の橋がある。しかし、ここも干上がり、橋を使わなくても行き来できる状態になっていた。
「人工物があるほうが、隆起前の海面の高さがわかりやすい。災害遺構として生かせれば」と青木さん。
今回の調査の目的の一つに…
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