達増拓也知事に聞く 災害ケースマネジメントの磨き、進めたい
東日本大震災から13年を迎える。岩手県内では、長く復興を指揮してきた首長が交代した自治体もあれば、引き続き街づくりを引っ張る首長もいる。そうした「かじ取り役」に、これまでの復興の課題や今後の目指すべき地域づくりなどを聞いた。今回は達増拓也知事。
――国に対する要望と今後期待することは
復興を機械的に終わらせるのではなくて、心のケアやコミュニティー支援などの必要な事業は、被災地の意見を十分に踏まえて、予算確保をお願いしたい。
今後の期待としては、県議会で「『三陸博』を再び」という意見が出ており、国主催のイベントを三陸沿岸で、ということもあり得るんじゃないかと思っている。
――13年が経過した今も被災地のコミュニティー形成の課題が残っている。何が要因か
仮設住宅に早く入ってもらわなければならなかったので、抽選で入居者を決めた。それで、被災前の元々のコミュニティーが分断され、地域の結束力が弱くなったり、高齢者の孤立化などにつながったりした面があると思っている。これからの災害対策は、元々のコミュニティーの維持にも配慮した対応が大事だと思う。
――(達増氏は昨年の知事選で公約に挙げた)三陸の振興に「まちづくり会社」を設立する展望を持っている
今後、市町村や関係団体の意見を聞きながら、具体化に向けた検討を進める。
――被災者個人の生活再建を専門性のある行政や民間が連携して伴走する「災害ケースマネジメント」を国が推進しているが、岩手ではその動きが鈍い
災害ケースマネジメントは、(医療や介護が必要な人が地域で住み続けられるように支援する)地域包括ケアほど、まだ制度化されてはいない。だが、国がまとめた実施の手引きでは、東日本大震災のときの盛岡市の内陸避難者への支援や、2016年の台風10号の際に岩泉町で見られた「生活支援シート」の活用が事例として載っている。様々な形で、「災害ケースマネジメント的」なことは、やってきている。
ちょっと時間はかかっているが、よりバージョンアップした形で、災害ケースマネジメント(の運用を)をできるようにしたいと思う。
――以前の討論番組で、沿岸の復興について、「道路が便利になったので、平日は内陸で働いて、週末三陸沿岸に戻る」という例を挙げていた。雇用を生むような産業は内陸に集中させる、という考えが基本にあるのか
実態として、内陸で自動車、半導体などの分野で産業集積が進み、求人が多く、その条件もいい。岩手県外に出るよりは、内陸で人手不足に困っている、優良な企業に就職するほうが、良いのではないかというのが基本的な考え方だ。一方で、沿岸における工場誘致は、あきらめていない。震災前よりも立地条件は良くなっており、沿岸への工場の誘致にも取り組んでいきたい。
――沿岸の学校では、児童・生徒数の減少により、希望する部活動ができなくなってきている。生徒が仕方なく内陸に進学することなく、求める指導を受けられるようにする方策を検討する考えはないか
近年の少子化の進行は、沿岸部のみならず全県的な傾向であり、県教育委員会は、学校単独での部活動が設けられない場合などに、複数校で合同部活動を行うことや、地域のスポーツ文化芸術団体と連携するなどの具体策を示している。
良い例としては、サッカーの斎藤重信監督が大船渡高校にいたことで、盛岡で生まれ育った小笠原満男さん(元Jリーガー、元日本代表)が、大船渡高校に入ったということがあったり、盛岡四高で合唱の指導をしている佐藤文子先生が宮古で指導したり、といったものがある。指導者を内陸に集めるのではなくて、岩手全体をまんべんなく育てていくような形で進める。(聞き手・小泉浩樹)
能登への伝言
能登半島地震は、日本全体で救助や復旧・復興に取り組まなければならない大規模災害だ。
岩手県は継続的な職員派遣の支援のほか、災害廃棄物処理に関するノウハウの提供、復興計画策定手法に関する資料の提供などを石川県に行っている。
また、東日本大震災津波での経験や知見も提供していきたい。
能登の復旧・復興では、被災者の意向や、地域のつながりなどのコミュニティーの維持・継続に十分配慮しながら、暮らしの再建に取り組んでいくことが望ましいと思う。
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