「野球がやりたい」 純粋な思いに応え続ける高校野球界であり続けて

室田賢

(第96回選抜高校野球大会)

 今大会から導入された低反発の金属製バットにより、打球は明らかに飛ばなくなった。大会を通じて、本塁打は3本(うち1本はランニング本塁打)。金属製バットが採用された第47回(1975年)大会以降で最少だった。

 青森山田の対馬陸翔と吉川勇大は大学など上のレベルを見据えて、木製バットで臨み、安打を放った。50年前は当たり前だった、木の乾いた打球音が、高校野球の甲子園に響くのは新鮮だった。

 大会を通じて打ち合いは、ほぼ見られず、1点を争うしびれる展開が多かった。堅守を発揮した報徳学園(兵庫)、走者三塁での「ゴロゴー」で、走者が完璧なスタートを切るなど、高い走塁技術を見せた健大高崎(群馬)が勝ち進んだ。決勝でも両者は好守を連発し、見応えのある戦いを繰り広げた。

 今春から21世紀枠による選出数が3から2に減った。野球だけではなく他の分野でも特色を発揮してきた学校や、部員が少ない中でも工夫して頑張っているチームにとっては、甲子園への門戸が狭くなった。

 高校野球は甲子園出場が現実的な強豪校とそうでないチームの「二極化」が進む。その流れが加速し、一部のトップ選手が中心の大会になってしまわないか心配だ。

 そんな中、今大会で印象に残った選手がいる。阿南光(徳島)の藤崎健。水泳部だった中学3年生のとき、阿南光が夏の全国選手権に出場したのをテレビで見た。「自分も高校野球がやりたい」とあこがれた。

 強豪校には推薦入学者しか入部を認められていないケースがある。硬式野球の経験がない藤崎は当初、指導者に入部について難色を示された。

 だが、現主将の井坂琉星らが「一緒にやろう」と誘ってくれたのだという。

 主力の福田修盛は1対1でバットの振り方や足の使い方を教えてくれた。藤崎は背番号19でベンチ入りし、「本当に夢みたい。幸せです」と目を輝かせた。阿南光は公立校で唯一、8強入りした。

 この選抜大会をテレビや球場で見て、藤崎のように夢と希望を持った子どもたちもいるだろう。

 野球がやりたい――。そんな純粋な思いに応える高校野球界であり続けてほしい。(室田賢)…

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