過渡期を迎える岩手県沿岸のNPO いかに官民連携を進めるか

小泉浩樹
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 東日本大震災が発生する前の2010年度、岩手県の沿岸12市町村にあるNPOの数は55団体だった。その後、震災復興を目的とした団体が次々と立ち上がり、13年度末には倍近い100団体まで増え、23年12月時点では122団体が登録されている。

 一方で、復興支援活動のために県がNPOなどに支出していた補助金は12年度に2億3713万円に達したが、22年度は1125万円に減少した。震災後、業務過多で行政が機能不全に陥る中、独自の活動で存在感を発揮した沿岸地域のNPOは、いま過渡期を迎えている。

 2月8日に開かれた県の東日本大震災津波復興委員会。委員として出席したあるNPO関係者は、市町村と連携して実施する、コミュニティー形成のための取り組み支援について苦言を呈した。

 「行政側の理解、現状把握が不足していると、こういったところ(コミュニティー形成)につながらない。若干残念」。こんな官民連携の不十分さを指摘するNPO関係者は多い。

 県内のNPOの中間支援を行ういわて連携復興センター代表理事の葛巻徹さん(46)は振り返る。

 震災当時、NPOと連携して事業を手がけていたのは、県外からの応援行政職員が比較的多かったと指摘し「結局、NPOと一緒にやるという実感が役所に根付かないで来てしまったという感覚がある」と話す。

 また、NPOの財政面でのもろさも課題だ。利益を出すことを目的としないNPOは、行政などの委託金、補助金や寄付が頼りになる。とりわけ、行政の委託を受け、主な収益となっている場合、その委託を受けることができるかどうかでNPOの運営は大きく左右されることになる。

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 官民連携を上手に進めている団体は、どんな活動をしているのだろうか。

 陸前高田市にある特定NPO「高田暮舎(たかたくらししゃ)」。市の事業パートナーとして、市のポータルサイトや空き家バンクの運営などの委託を受け、移住定住促進を進める。

 高田暮舎は、認定NPO「桜ライン311」の代表理事を務める岡本翔馬さん(41)が17年に立ちあげた。

 桜ラインは震災後に発足したNPOの一つで、津波が到達した地点に10メートルごとに桜を植え、最終的には1万7千本、総延長約170キロの「並木」を市内沿岸部に作ることを目指している。その趣旨に賛同する企業などから寄付や助成金を受け、「沿岸で最も大きなNPOの一つ」(NPO関係者)に成長した。

 その一方で岡本さんは移住者支援の必要性を感じた。そこで、移住者自身が高田暮舎のスタッフになり、新たな移住者の支援をすることで新しい移住者コミュニティーを構築する、などといったコンセプトを基に高田暮舎を設立した。

 陸前高田市からの委託金に依存する高田暮舎と、民間の寄付金を広く集める桜ライン311の両方の代表を務める岡本さんは、両者の運営の違いについて「高田暮舎の場合は、私たちの振るまいが市の振る舞いとイコールになる」。そのため、1年近くをかけて市と「何のための移住なのか。誰のためのサービスなのか」といったすり合わせを丁寧に行い、今の信頼関係につながっている。

 市には年間400~500人の転入者がある。高田暮舎の活動経由で移住を決めた人は101人に上る。

 2月10日、高田暮舎が、お試し移住体験ツアーを開催した。参加したのは県外の男女7人。3日間の日程で、先輩移住者の話を聞いたり、「お茶っこ」をしながら地域の人と交流したりした。

 参加者の中に、移住を考える夫に連れられて足を運んだ30代の女性がいた。当初は移住に消極的な考えだったが、3日目の帰りのバスの中で、「一戸建てでワンチャンを飼って生活してみたい」と発言し、ほかの参加者から拍手が起きた。

 岡本さんは「行政の理解がないと嘆くよりも、行政から欲しいと思われるパフォーマンスを出していくことを考えるべきだと思う」と語った。小泉浩樹

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