原発の町襲った震度7 現実的な避難計画には「政府がもっと関与を」

能登半島地震

聞き手・冨名腰隆
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 能登半島地震を機に複合災害への対応が問われる中、原発立地自治体は住民避難にどう向き合うべきか。稲岡健太郎・石川県志賀町長に聞きました。

――今回の地震で、原発事故の際に避難ルートとして設定されていた道路がいくつも通れない状況になりました。

 「避難計画を読み返すと、とにかく原発から離れるということに重きがあり、現実性に欠ける中身だという指摘はその通りだと思います」

 「志賀原発能登半島の南側に位置しており、緊急時の避難においては、原発より北側の住民は半島の北へ逃げていく計画になっています。ですが、今回の地震では地割れや土砂崩れが起きたため、道路は各所で寸断されました。陸路で避難することが困難であることがはっきりしました」

 「そうなると海路や空路が想定されます。実際、避難計画には海上交通手段を利用することも書いていますが、今回は津波警報が出ていたし、海底の隆起で利用できない港も出てきました。空路も、例えば自衛隊のヘリコプターで運べる人数には限りがあると思います。現実的な避難方法はなかなか思いつかない心境です」

――避難計画への問題意識は、以前からあったのでしょうか。

 「志賀原発の営業運転開始は1993年です。全国の中では比較的新しい原発であり、ある種の安全神話もありました。2011年の東日本大震災までは危機感も薄かったように思います。東京電力福島第一原発の事故によって、原発立地自治体が抱える不安や問題意識が町民の中で高まった時期もありますが、あれから10年以上経ち、その意識が次第に薄れてきていた気もします。そんな中で、今回の地震が起きました」

――昨年末の町長選で当選されたばかりですが、選挙でも原発再稼働には前向きな姿勢だったと思います。地震で心境に変化はありますか。

 「原発は志賀町にとって、簡単に取りのけられる施設ではありません。仮にいま、廃炉を決めたとしても実際になくなるまでに何十年という月日が必要になるでしょう。そういう意味では、根を張っている施設とも言えます」

 「すでにあるものをどう活用するか、という観点に立てば、安全面をどうクリアするかが大前提ではありますが、再稼働もあり得るという考えでした。ですが、今回の地震で私の心の中に変化もあります。もともと原発の建設が決まった数十年前は、地震が少ないことがこの地域のアピール点でもありましたが、それも崩れました。群発地震がしばらく続く懸念もある中で、そう簡単に再稼働できる状況ではなくなったと感じています」

――今回、地震後の志賀原発の安全確認や避難について、どう対応しましたか。

 「発災直後に大きな問題が起きていない旨の報告は受けましたが、後になって北陸電力から油漏れの発表がありました。中の状況を確認できない私たちにとって、北陸電力の発表が重要であることは言うまでもありません。しっかりしてほしいという思いはあります」

 「避難計画に従えば、原発から半径5キロ圏内に暮らす要支援住民に対して避難準備に入るよう伝える揺れの大きさでしたが、実際にはできていません。津波警報も出ている中で、最優先で呼びかけたのは高い場所への避難でした。今回、町があらかじめ策定していたBCP(事業継続計画)も機能していませんし、こうした意味でも災害への備えは見直しが必要だと感じています」

――避難計画の見直しへの大きな課題は何でしょうか。

 「住民避難は一義的には地元自治体の役割ですが、マンパワーの問題や地理上の制約も受けます。国や県に責任を押しつけるつもりはありませんが、自衛隊の動き方も含めて、政府がより積極的に関わる必要があるように思います」(聞き手・冨名腰隆

 いなおか・けんたろう 元町議。昨年12月24日、町発注工事の入札を巡る贈収賄事件で逮捕・起訴された前町長の辞職に伴い行われた町長選で当選。46歳。

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能登半島地震

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