お試し居住→自然に魅せられ移住 和食店経営の夫婦がいすみ市へ

中野渉
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 和食店を東京都内で26年間、経営してきた夫婦が1月、千葉県いすみ市で創作料理店を開いた。市内に1週間滞在する「お試し居住」で、地元住民の積極的な対応を受けて移住を決めた。2人は「地産地消の一品を提供して認めてもらいたい」と話す。

 徳竹真一さん(57)と京子さん(61)は先月5日、いすみ市岬町江場土に「御料理とく竹」をオープンした。海と山の新鮮な魚介や野菜などを使った和会席のコース料理を振る舞う。

 2人は船橋市出身。東京都中央区杉並区で店を営んできたが、「東京だと埋もれてしまうので、将来は地方に移って小さくても店を手掛けたいと思っていた」と京子さん。コロナ禍で客足が減ったことも後押しした。候補地として岐阜県香川県にも足を運んだ。

 いすみ市を訪れるきっかけになったのは、移住を検討している人を対象にした市の事業で、生活を具体的にイメージしてもらう宿泊体験だった。知人の提案で参加すると、居住先の世話役や市職員が親切に地域の実情を伝えてくれた。ネットでは得られない日常を知ることができた。

 約2年半前に移り住み、気に入った物件が探せるまでは出張料理人をした。2022年に市内で築50年の古民家が見つかり、自宅兼店舗にすることにした。1年ほど前に引っ越し、昨夏から改修を進めていた。

 店には約5メートルの木曽ヒノキの一枚板を置いたカウンターに、7席を設けた。客の前で真一さんが刺し身を切り、焼き物を焼く。

 ランチは3850円、ディナーは1万1千円(いずれも税込み)。ランチの定番「いすみ蒸し」はご飯が入った茶わん蒸しで、地元産の米や卵、タコ、アワビ、菜の花などを素材にした自慢の一品だ。

 飲み物は地酒を中心とした日本酒やロゼワインなどを用意した。京子さんはワイン関係の仕事をした経験があり、こだわって商品をそろえている。

 いすみ市で気に入っているのは豊かな自然だ。高い鮮度の食材が生産者から直接手に入る。時間を惜しまず、手間をかけて調達している。里山に入って野草や山菜を採り、漁師の手伝いをすることもある。

 気がかりなのは、林業に加えて山芋や川魚などの山の恵みを収穫する担い手の高齢化だ。夫妻は「生産者とつながり、消費することが農地や山の環境保全になる。料理を通して、その循環を次世代にバトンタッチしたい」と話す。中野渉

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