トランプ氏が扇動する世界で 森本あんりさんが考える「聖なる秩序」

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聞き手 編集委員・塩倉裕
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 米連邦議会の襲撃を「扇動」したとされているトランプ前米大統領が、再選されかねない勢いを見せています。自由と民主主義の国と呼ばれてきた米国で、なぜ制御が利かないのでしょう。そもそも、暴走した政治家に有権者はなぜ支持を与えているのでしょうか。

 米国の宗教や思想に詳しい宗教学者の森本あんりさんに聞きました。お話は「光の子の愚かさ」についての考察から始まり、「トランプ氏が破壊する世界で人間は聖なる秩序に再接続できるのか」という問いに至ります。

民主主義の制度と「悪意のある指導者」

 ――トランプ元米大統領が、再び大統領に選ばれかねない勢いです。しかし彼は、米連邦議会への襲撃を扇動したとして刑事訴追されている人物であるはずです。森本さんは、トランプ氏は扇動をしたと思っていますか。

 「ええ、思っています。私以外のたいていの人々も、そう思っていることでしょう」

 ――もしトランプ氏がまた大統領になったら、扇動の問題がうやむやにされるだけではなく、扇動を「込み」にした政治が起動することになるのではないかという不安を感じます。

 「扇動する米大統領という問題を今どう考えればいいのか、ですよね。私はまず、自由と民主主義が制度的に整っていると思われている国で、なぜ今こんな理不尽なことが起きてしまうのかという問いについて、考えてみました」

 「この問題は、かつて作られた制度と今生きている人々の現実との間に生じた乖離(かいり)を映し出したものだと私は思います。18世紀に合衆国憲法が作られたとき、『大統領が国家への反乱を扇動する』事態への備えが必要であるとは想定されていなかったのです。扇動のもたらす弊害をうまく制御できていないのは、そもそも準備がなされていなかったからでもあります」

 「選良やエリートとは、一定の高潔さや誠実さを備えている存在であり、公平・公正を意識した振る舞いをするはずだ。そう信じられた時代に作られた制度だということです。ところが、そのどちらも考慮しないトランプ氏によって制度が破壊され、『まさか起きないだろう』と思われていた事態が次々と現実になってきました。悪意のある人間が使っても壊れにくいような制度に作り替えていく必要があるのでしょう。もう少し手の込んだ政治秩序の構築の仕方が求められているのだと思います」

 ――なぜ、そのような当初設計になってしまったのでしょう。

 「米国の神学者ニーバーの言…

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    マライ・メントライン
    (よろず物書き業・翻訳家)
    2024年2月14日12時15分 投稿
    【視点】

    楽団員としてアウシュヴィッツを生き延びた体験者の手記『アウシュヴィッツの音楽隊』に、収容所看守の親衛隊員が「もしドイツが戦争に敗北して、この殺人工場の存在が世界にバレたとしても、誰も我々を裁くことはできない。なぜなら、ここで行われていること

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    磯野真穂
    (東京工業大学教授=応用人類学)
    2024年2月14日16時39分 投稿
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    昨今、対等や平等の素晴らしさが叫ばれます。これら言葉には反論の余地がないほどの勢いを感じますが、特定の言葉がそうやってキラキラしながら走り出す時は、逆に注意が必要です。 >全員が平等とみなされるフラットな社会になり、誰もが信じたいこと

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