経営統合で「失敗作」に光、響き合う開発者たち レゾナック発足1年

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宮崎健
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 昭和電工日立化成(昭和電工マテリアルズに改称)が経営統合し、昨年に発足したレゾナック・ホールディングス(HD)で、20年前にあきらめた半導体の新素材の開発が再び始まった。

 「まさに『お蔵入り』になっていた」。昭和電工出身で、群馬県伊勢崎市の拠点に勤務するレゾナックの西口将司(しょうじ、51)が振り返るのは、電子回路の基板に使われる「低誘電樹脂」だ。

 膨大なデータを高速で計算処理する高性能な半導体の基板は、電気信号の伝送ロスをいかに抑えられるかが課題の一つとなっている。電気信号をレーシングカーに例えれば、この樹脂はサーキットの路面のでこぼこを減らす役割を果たす。エネルギーのロスを抑え、車を高速で安定して走らせることができる。

 見た目はただの茶色い液体だが、対話型AI(人工知能)やスーパーコンピューターに使われる半導体の性能を左右する素材だ。

 西口を中心とするチームは2000年、この樹脂の開発を担った。「どの原料をどのくらい使って合成するか。毎日少しずつ条件をかえて試した」。数年後、他社の樹脂を展示会で見て「われわれのほうが優れている」と手応えを得た。

 だが、試作中の樹脂を取引先メーカーに加工してもらうと「電子基板への張り付きが悪い」などと言われた。改良を重ねても思うようなシート状にならなかった。「加工しやすくすると低誘電の効果が減り、『あちらを立てれば、こちらが立たず』のジレンマに陥っていた。当初の評判がよかっただけに悔しかった」。課題を克服できず、チームは04年に解散した。

「失敗作」に光 買収で動き出す

 そんな「失敗作」に光が当たったきっかけが経営統合だった。

 昭和電工は成長事業の半導体を強化するため20年、日立化成を買収。同社はスパコン「富岳」に製品が採用されるなど加工技術に定評があった。開発現場では買収後、23年の正式統合に向け、両社の技術を持ち寄って説明しあう交流会が始まった。そのなかで、昭和側の資料にひっそりと載っていた低誘電樹脂に日立側が反応した。「この材料、いいんじゃないですか!」

 一方、失敗作という思いのあった昭和側は腰が重かった。試作の再挑戦をせかす日立側に対し「本当ですか?」などと答え、1年近くがすぎた。しびれを切らした日立側は21年3月、西口のいる拠点に山下剛(たけし、42)を送り込んだ。

 05年に日立化成に入社した山下は、樹脂の開発に詳しい同社では希少な存在。茨城県筑西市の研究所から1週間の泊まり込みでやってきた。製造課長として研究開発から離れていた西口が急きょ呼び出され、「実験ノートや資料を見返しながら教えた」。

 いくつも試作した当時の樹脂から、西口は記憶をたどりながら2種類の樹脂を再現してみせた。山下もつくり方を頭にたたき込んだ。しかし、茨城の研究所に戻った山下が数カ月かけて改良と分析を繰り返しても、理想の樹脂にはならなかった。「悪くはないけど、そこそこのレベル。改良していってもこの先はないかな」

 妥協はしたくなかった山下は、ある日の打ち合わせで切り出した。「もっと特徴的で、とんがった樹脂がほしい。ほかにありませんか?」。熱意にほだされるように西口は答えた。「実はこういうのもあるが……」。それは当時、とくに加工しにくいと酷評されたものだった。

悲願の製品化 リベンジなるか

 日立化成出身の山下剛(たけ…

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