第9回非正規雇用が生んだ「アンダークラス」 低所得層1100万人支援を

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識者に聞く京アニ事件② 早大教授・橋本健二さん

 36人が死亡した京都アニメーション放火殺人事件。裁判では、青葉真司被告(45)の半生が明らかになりました。こうした事件を再び起こさないために、社会に何ができるのか。識者とともに考えます。

 2回目は早大教授の橋本健二さん。「アンダークラス」という概念から、青葉被告の背景を読み解きます。

    ◇

 《一度コンビニのバイトとか派遣とかにつくと、はい上がるのは難しい。上にのぼれる階段なんてそんなにいくつもある世界ではない》(青葉被告、昨年9月20日の被告人質問で)

 青葉被告は東京の専門学校を中退後、コンビニで約8年間バイトをし、その後も工場での非正規労働などで生計を立てました。

 公判では、自分と同じ元非正規労働者で、東京・秋葉原で無差別殺傷事件を起こした加藤智大(ともひろ)元死刑囚に、自身の境遇を重ねました。

 《20歳を越えてから仕事を転々として、郵便局の仕事も首になったりしました。(加藤元死刑囚が)そういう事件を起こしたことについて、共感と申し上げましょうか、類似点じゃないですけど、ひとごとに思えなかった》(青葉被告、昨年9月14日の被告人質問で)

 今回の事件の中心には、京都アニメーションに対する被告の妄想があると思いますが、現実世界で仕事がうまくいかなかったことが妄想をふくれあがらせる一因になっただろうと感じます。

「時代の犠牲者」 自分は不幸と考える傾向

 青葉被告が専門学校を中退したのは、バブル崩壊後の不良債権問題で大卒者の就職率が急落し、無職やフリーターになる若者が急増し出す頃です。

 時代が違っていれば正社員に…

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    西岡研介
    (ノンフィクションライター)
    2024年1月23日15時0分 投稿
    【視点】

    JRの労働組合を取材していた時も感じたことだが、日本の労組のマジョリティである「企業内労組」の大半は、同じ会社の「非正規労働者」に実に冷たいのだ。同じ職場で働く「仲間」であるにもかかわらず。そんな冷たい姿勢や態度が、過去最低を更新し続ける「

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    磯野真穂
    (東京工業大学教授=応用人類学)
    2024年1月24日6時58分 投稿
    【視点】

    本誌のコメンテーターでもある小熊英二さんが、日本型雇用の成立を精緻に読み解いた著書『日本社会のしくみ-雇用・教育・福祉の歴史社会学』の中で、「社会の合意は構造的なものであって、プラス面だけをつまみ食いすることはできない」と述べています。

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京都アニメーション放火殺人事件

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