ウーパールーパーの「ウパ」、古刹で供養して見えたペットの家族化

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松下秀雄
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 「松下家、愛ウーパールーパー、ウパ」

 読経の最中、住職がその名を呼んだ。

 次々に「愛○○」の名を呼んだが、たいていは愛犬や愛猫。愛ウーパールーパーは「ウパ」だけだった。

 住職が「わんわんにゃんにゃんの日」と紹介した11月22日、山口市で催された「動物供養大祭」の法要でのことだ。

 場所は龍蔵寺。およそ1300年の歴史をもつ、市内きっての古刹(こさつ)である。

11年間、朝日新聞山口総局の「受付係」を務めてくれたウパ

 「松下家」というと我が家にいたみたいだが、ウパは私の職場、朝日新聞山口総局で暮らしていた。

 2012年7月21日の山口版に、総局に来るときの記事が載っている。

 「『里親になって』 ウーパールーパー」という見出しのその記事は、山口市内の企業で約400匹が生まれ、里親を募集していると伝えている。

 実は、取材した記者ももらい受けてきた。それから11年、事務室の玄関脇の水槽で、来客や総局員を迎える「受付係」(?)を務めたのだった。

 昔、カップやきそばのCMで人気者になったウーパールーパーはピンクを帯びた白。ウパは黒っぽくて、サンショウウオのようなルックスだ(実際、サンショウウオの仲間だそうだ)。

 色は違っても、なぜか愛嬌(あいきょう)がある。エサをあげたあとニラメッコすると、耳のようにもみえるエラをピクピクさせる。そんな時、私は「お話ししてくれたね」と、ひとり悦に入っていた。

 ウパは「酒のさかな」にもなった。

 酒場のカウンターで隣り合った人と話す時、スマートフォンに保存している写真をよく見せた。「かわいいでしょ」と同意を求めると、「愛嬌がありますね」と返してくれる人もいれば、困った顔をする人もいた。

亡きがらと初のドライブ、しめやかな火葬

 ところが、6月ごろからだったろうか。エサをあげても食べなくなった。

 いつもは口元に向けてエサを落とすと、落ちきる前にパクッと食いつく。なのに、何度落としても食いつかない。

 8月のある日。出社すると、動かなくなっていた。

 死んだんだろうか? 実は「死んだふり」で、また動き出したりしないかな?

 しばらく様子をみたが、やっぱり息絶えていた。

 一緒に世話をしてくれていた総局のスタッフと、こんな相談をした。

 亡きがらをどうしようか?

 水の生き物だから、川にかえすのが幸せなのかな?

 けれど、川に流したり河原に埋めたりすると不法投棄になる。それに、もし病気をもっていると、ほかの両生類に感染する可能性があるという。

 市に引き取ってもらうこともできる。ただ、山口市ではほかの廃棄物と一緒に焼却するそうで、なんだかしのびない。

 あれこれ悩んだ末、選んだのが業者に火葬してもらうことだった。

 遺体を段ボール箱に納め、助手席に乗せた。段ボールに向かって「初めてのドライブデートだね」と声をかけ、山あいの道を進むと山口動物霊園があった。

 霊園の職員は人間の火葬と同じように、しめやかに執りおこなった。

 ウパはエサや菊の花、似顔絵とともに炉の中に入っていった。

 遺骨は龍蔵寺の動物用の共同墓地に埋葬され、供養されるということだった。

「ペット供養」ののぼり、大内氏と毛利氏ゆかりの古刹に林立

 龍蔵寺は、霊園のすぐ隣の石段を上ったところにある。

 火葬のあと訪ねてみた。

 石段下の案内板には、698年、役小角(えんのおづぬ)(役行者)が奥の院の岩窟を「龍の蔵」と名付け、741年、僧・行基が寺を建てて「龍蔵寺」と呼んだという言い伝えが記されている。この地を治めた大内氏、毛利氏は守護寺にしていたという。

 境内に入ると、長い歴史をもつ寺であることが一目でわかる。正面の古いお堂は「画聖」雪舟筆と伝えられる絵馬が飾られる観音堂。その前にそびえるイチョウの巨木は国指定の天然記念物。高さは約50メートル、全国一といわれているそうだ。

 ただ、それ以上に私の目をひいたのは、林立する赤いのぼりだった。「ペット供養」と記されている。

 まるでペットの寺みたいだなあ……。

 古刹の風情とのギャップに少し戸惑いながら、動物用の共同墓地を探す。高さ約10メートルの不動明王像の足元に馬頭観音像がある。その地下が、遺骨を納める場所だった。

 だれか飼い主が供えたのだろう。観音像前のケースにペットフードが入っていた。

続く観音信仰、変わる人と動物の関係

 なぜペット供養なのか。

 宮原大地住職(50)に聞くと、寺が動物霊園を経営しているわけではなく、霊園側からここで事業をしたいと20年近く前に申し出があったと説明した。そのうえで、寺と動物のかかわりについて、こういった。

 「馬頭観音さまの観音信仰があって、いままでずっと続いているんです」

 この寺の馬頭観音像は、先に紹介したものだけではない。正面の観音堂の本尊が馬頭観音で、古くから馬や動物を守る仏として信仰を集めてきた。もともと動物と縁の深い寺だったのだ。

 ただ、時代によって移り変わることもある。

 大内氏、毛利氏の守護寺だった時代には、武将たちが合戦に赴く前に馬で乗り付け、必勝の祈禱(きとう)を受けた。戦がなくなったあとは、近所の農家が、農耕に使う牛馬がけがをしたり病気になったりしないようにお参りしたという。

 戦場で馬が倒れたら、自分も命を落としかねない。牛馬が働けなくなったら、生計がなりたたない。当時は牛馬だけでなく、人の命や生活を守ることもふくめて祈願したのではないかと住職は考える。

 一方、最近はペットが「家族同様」の存在になっている。先祖代々の墓に「一緒に入れてもいいか」という相談もよく受けるそうだ。

 ちなみに、供養される動物は犬と猫が圧倒的に多い。ただ、サル、ブタ、魚、カメ、トカゲなどもいるという。

腕枕で寝た犬の死に、一人暮らしの男性は

 11月22日の動物供養大祭で、私の隣に座った長門市の男性(73)は、犬が「家族」だといっていた。

 「いつも私の腕枕で寝ていた…

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    太田匡彦
    (朝日新聞記者=ペット、動物)
    2023年12月27日9時8分 投稿
    【視点】

    動物は人の言葉を話さないので、死を前に痛みや苦しみを直接的には伝えてきません。だから飼い主は、その死のあり方を様々に想像し、「もっとできることがあったのではないか」などと自責の念にかられることが多い。そのために、ペットロスに陥ってしまうこと

    …続きを読む