「検視人員、場所、すべてが不足」 震災教訓に警察OBが支援組織

編集委員・石橋英昭
[PR]

 大災害時に最前線に立つ警察組織を支えようと、東日本大震災を経験した元警察幹部らが、NPO「災害時警友活動支援ネットワーク」を発足させた。中心になったのは震災当時、宮城県警本部長だった竹内直人さん。あの時できたこと、できなかったことを踏まえ、次の発災時や訓練の際、支援や助言役を担うことをめざす。

 宮城、岩手両県警と警視庁の幹部経験者や、池田克彦・元警視総監らキャリア官僚OBが名を連ねる異色の団体だ。11月27日、関係者を集めた設立記念講演会が、東京都内で開かれた。

 12年前の震災で警察は、かつて経験したことのない「大量死」に向き合った。多数の遺体を検視し、行方不明者の情報と照合し、家族に引き渡す作業は、大変な困難を伴った。

 竹内さんは講演の中で、当時、県警OBから検視を手伝いたいと申し出があったものの、制度上の問題で断念したことを紹介。人員、資機材すべてが足りず、特に遺体関連業務は自治体との連携が不十分で、様々な混乱が生じていたことを明かした。

 宮城、岩手県警でそれぞれ捜査1課長だった阿部英明さん、西野悟さんもNPOのメンバーだ。この日はオンラインで参加した。

 阿部さんは、不明者を捜す家族の願いに押され、安置所への立ち入りを認めて自由に見てもらった結果、遺体の取り違えが生じた苦い経験を語った。「みな必死な中で、誰も責められない」としつつ、客観資料で十分に身元確認すべきだったとした。また、検視用機材や遺体を納める袋の備蓄が必要とも訴えた。

 西野さんは、検視場所や遺体の安置場所、検案にあたる医師の確保に苦労したことを紹介。自治体などと平時から調整しておけば、他の警察活動に力を振り向けられたとした。

 被災地には全国の警察が応援に駆けつけたが、その宿泊場所や食料の手配も課題だった。地元県警に余力はなく、警視庁がこうしたロジ部門を引き受けた。元警察庁警備局長で、警視庁で当時担当した桜沢健一さんは、岩手県内陸部のホテルを拠点に、後方支援に奔走した経緯を振り返った。

 設立された「災害時警友活動支援ネットワーク」では、あらためて震災時の反省点を探り、何が必要かを調査研究。経験知を持つ元警察官の加入を募り、大災害時の派遣体制を築くことをめざしている。

 発生が迫っているとされる南海トラフ地震、日本海溝・千島海溝地震や首都直下地震では、最悪の場合、東日本大震災を上回る死者数が想定される。警察庁は震災翌年、1万人規模の即応部隊を含む警察災害派遣隊を新設。各自治体の地域防災計画でも遺体安置所について書き込まれるなど、備えは進みつつある。

 竹内さんは「それでも我々にできる領域はある。現役の警察庁幹部とも意見交換をし、どんなニーズがあるか、マッチングをしてゆきたい」と話した。(編集委員・石橋英昭

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【締め切り迫る】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら