38歳と23歳、先生と生徒はプロボクサー 念願の同じリングに立つ
アフロヘアがトレードマークのプロボクサー長谷川優太(23)は小学2年の夏、地元の埼玉県熊谷市にある「熊谷コサカジム」に入門した。
そのときに手ほどきしてくれたのが、すでにプロデビューしていた加藤寿(ひさし、38)だった。
長谷川には回り道もあったが、今は同じプロとして「先生」と肩を並べた。
熊谷コサカジムは、試合を主催するような大手のジムではない。2人はよそのジムから試合の声がかかるのを待ち、それぞれに戦ってきた。
今まで、同じ日に試合をしたことはない。
2人のささやかな夢は、同じ日に、同じリングに上がり、ともに勝利することだった。
そのチャンスがきた。
31日、2人は東京・後楽園ホールでの試合に臨む。
「どちらかがボクシングをやめるまで、同じ日に試合をすることはないのかなと思っていたので……。決まったときは、とにかくうれしかったです」
長谷川は声を弾ませた。
長谷川は加藤の指導を受け、小学6年で全国大会優勝を果たした。
しかし、ボクシングから離れた過去がある。
定時制高校1年で国体に出た後、高校を中退した。友達との夜遊びが楽しくなり、何も言わずにジムから去った。
だが、失って初めて「ボクシングでないと得られないものがある。何も楽しくない」と気がついた。
ジムに戻りたい気持ちはあったが、突然やめてしまった気まずさもあり、踏ん切りがつかなかった。
そんなときに背中を押してくれたのが加藤だった。
2019年5月、加藤は静岡のリングに上がった。
加藤は日本ランキング入りをめざしながら、壁が破れず、一時は「限界を感じて」引退した。
だが、あきらめきれず、約3年半ぶりに復帰した一戦だった。
その試合で加藤は判定勝ちした。観客席にいた長谷川は、「あきらめない姿に感動して」号泣した。
試合後、すぐに長谷川はジムに戻った。そして、加藤と同じプロボクサーの道を歩み始めた。
昨年は東日本新人王に輝き、戦績4勝(3KO)2敗1分け。
「早く加藤さんに追いつきたい。今回も勝って(試合順が後の)加藤さんにつなぎたい」と意気込む。
加藤は昨年、37歳で初めて日本ランキング入りを果たし、今年4月には初の日本タイトルマッチに挑んだ。
ベルトには届かなかったが、「遅咲きの星」として注目を集めた。
31日は、再度の日本タイトル挑戦権をかけた試合になる。
「試合間近になっても、リラックスしているのは優太のほう。僕のほうが緊張していますよ」と笑った。
同じ現役選手として、若い長谷川に背中を見せることができる。それが何よりもうれしい。
「いつまで現役でできるか分からない。先を見ず、次の相手をリスペクトして全力で戦います」(伊藤雅哉)
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