G7広島サミットの核抑止論に異議、31人の書籍 10代から90代

柳川迅
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 5月に広島市で開かれた主要7カ国首脳会議G7広島サミット)の意義を問う書籍「私たちの広島サミット 被爆地から核廃絶を訴える」が今月、出版された。被爆者核兵器廃絶をめざす市民団体のメンバーら31人が寄稿した。

 本の帯には「破綻(はたん)した核抑止論に私たちの未来を託せるのか」とある。サミットで各国首脳が共同で発表し、核抑止論を肯定した「広島ビジョン」に、厳しい意見が並んだ。

 第2次「黒い雨」訴訟原告団長の岡久郁子さん、二つの広島県原爆被害者団体協議会の理事長、箕牧(みまき)智之さんと佐久間邦彦さんら被爆者たち、カフェ「ハチドリ舎」店主で核廃絶をめざす若者らの団体「カクワカ広島」発起人の安彦恵里香さんら、10代~90代の幅広い年代の寄稿者をそろえた。

 元広島市長の平岡敬さんは「広島ビジョン」についてこうつづっている。

 《「核兵器は、それが存在する限りにおいて、防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し、並びに戦争及び威圧を防止」するものだという持って回った言い回しで核兵器の有用性を強調して、「核抑止」を正当化している》

 ビジョンが核兵器禁止条約に触れていないことにも言及した。

 《西側の主張と国家の論理にからめとられた論理構成になっている。国家の論理を乗り超え、地球市民、世界市民の立場で訴えてきた広島は「広島ビジョン」に反論し、否定していかなければならない》

 フリーランス記者の宮崎園子さんは、サミットを取材した立場から寄稿した。

 《平和記念資料館。地面から天井までガラス張りの壁が、内部が見えないように全体的に目隠しされていた。わずかの時間、首脳たちの前で自らの体験を語ることを任された被爆者は、証言の詳細について口外しないように指示された。資料館長ですら、首脳たちの見学の様子について「政府行事なので」と口をつぐんだ。首脳たちはいったい、何を見て、何を聞いたのか。情報がないのに、「被爆の実相」に触れてもらったと、どうして言えるか》

 13歳のときに広島で被爆したカナダ在住のサーロー節子さんによる今夏の講演も収録した。講演では議長を務めた岸田文雄首相についてこう指摘している。

 《「安全保障環境が厳しい」から、核に頼るのは仕方がないと言っています。けれども、実際に核を持っているのは193の国連加盟国の中でわずか9つです。120も130もの国々が、この惰性から抜け出して、世界に非核地帯を作り、核兵器禁止条約を創りだしているのです》

 核兵器廃絶日本NGO連絡会幹事で23歳の高橋悠太さんは読者に呼びかけた。

 《近年、核兵器廃絶のために活動する10~20代が増えている。高校生も多い。知識も経験も豊かではないが、核廃絶のためにどんな役回りができるか、考え行動する。私たちは本気で課題を解決しようとしている。だから、読者のあなたも一緒に行動してほしい》

 巻末に寄稿したNPO法人「ANT―Hiroshima」理事長の渡部朋子さんはこのように結んだ。

 《世界中の市民社会とつながって、核兵器廃絶への行動を促すため、知恵を絞りましょう。そして日本政府に対しては、核兵器禁止条約に批准すべく働きかけ、核被害者支援の先頭に立つよう、粘り強く要請していきましょう。

 G7広島サミットは終わらない、終われないのです》

 編者は県原水協など県内の10団体でつくる「G7広島サミットを考えるヒロシマ市民の会」(神部泰共同代表)。日本機関紙出版センター発行。A5判184ページ。1540円。

 28日午後3時から広島市西区民文化センターで主な寄稿者が発言し、参加者と意見交換する記念イベントが開かれる。(柳川迅)

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    副島英樹
    (朝日新聞編集委員=核問題、国際関係)
    2023年10月12日11時33分 投稿
    【解説】

    G7広島サミットは今年5月に開かれました。前提として、G7は厳格な核同盟という性格があります。「広島」の冠が付けられた「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」は、目隠しされた平和記念資料館をG7首脳らが訪問した5月19日の夜に発出されました。

    …続きを読む