列車にはねられた認知症の父 事故訴訟後に新聞から消えたあの2文字

斉藤佑介
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 「世界アルツハイマーデー」の21日、愛知県大府市認知症への理解を深めてもらう催しがあった。

 認知症の父が列車にはねられ、JR東海との約8年に及ぶ訴訟で勝訴した長男の高井隆一さん(73)=同市在住=が、岡村秀人市長と対談した。高井さんの父(当時91)は2007年、大府市の自宅を1人で出て、列車で1駅移動し、ホームから線路に下りて、列車にはねられた。JR東海は事故による損害賠償を請求したが、最高裁は16年に「家族に責任はない」と、逆転勝訴を言い渡した。

 高井さんら家族は事故前、父の服に名前と連絡先を書いた名札をつけていた。「今なら夕方の電車に乗っていた父に誰かが声をかけてくれたかもしれない」と高井さん。

 認知症の人や家族らを手助けする「認知症サポーター」は今や、全国約1400万人に増えた。高井さんはそうした変化を歓迎した上で、「認知症への理解は進んでいる。認知症が特別視されない社会になれば」と話した。

 大府市も17年に全国に先駆けて「認知症条例」(通称)を定めた。市内で約3千人と推計される認知症の人や家族が安心できる街づくりを進め、育成したサポーターは2万人を超えた。

 ここ数年の大きな変化として高井さんは、「(目的もなく歩くという意味の)『徘徊』という言葉を新聞や行政が使わなくなった」と話した。同市は5年前から使用をとりやめた。「ひとり歩き」などと表現する。岡村市長は「言葉から意識を変えたいとやってきた」と振り返り、今後は医療機関などと連携し、認知症予防にも力を注ぐという。斉藤佑介

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    杉田菜穂
    (俳人・大阪公立大学教授=社会政策)
    2023年9月22日15時21分 投稿
    【視点】

    「認知症」も、以前は「痴呆症(ちほうしょう)」と言われていた。厚生労働省(「痴呆」に替わる用語に関する検討会)が、報告書で「『痴呆』という用語は、侮蔑的な表現である上に、『痴呆』の実態を正確に表しておらず、早期発見・早期診断等の取り組みの支

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