ハワイ島の水鳥のため、私は戦う エコツアーガイド長谷川久美子さん

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東山正宜
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 ハワイ島に水鳥が住みやすい環境を取り戻そうと、水場から外来種の草を取り除くボランティアに取り組んでいる。

 「手つかずの自然が残るなんて大ウソ。低地の植物の9割は外来種とも言われる」

 エコツアー会社「ハワイ・ネイチャー・エクスプローラーズ」を営む長谷川久美子さん(58)は憤る。

 ハワイ島はもともと、在来種の森が広がる大地だった。

 19世紀、そこに西洋人が移り住み、森を切り開いてコーヒーやサトウキビのプランテーションを始めた。

 島にいなかった牛や羊が持ち込まれ、大規模な牧畜が始まった。湿地は埋め立てられ、住宅やリゾート地に。わずかに残った水辺や池には外来種の牧草が生い茂り、えさ場を失った水鳥は巣を作れなくなった。

 ようやく生まれた卵やヒナは、ネズミ対策として放たれたマングースや野ネコに食べられてしまう。ハワイの州鳥で固有種のハワイ雁(がん)「ネネ」は一時、絶滅の危機に陥った。

 長谷川さんはもともと、植物や鳥を観察したり、自然史について学んだりといった体験型のエコツアーを主催してきた。しかし、2020年に新型コロナウイルスが世界的に流行すると、仕事はぱったりとなくなった。

 とはいえ、失業保険は出ていたから、当面は生活できる。時間に余裕ができた今こそ、ハワイの自然に恩返しをしよう。島の反対側まで出かけては、森の再生ボランティアに参加した。

 ある時、絶滅危惧種の水鳥「セイタカシギ」が、島の東部にはほとんどいなくなったと聞かされた。そういえば、10年ほど前に、地元ヒロにあるロコワカ池で見かけたことがあったっけ。池は外来種の牧草に覆い尽くされていたけど、もしかして、環境を元通りにしたら、戻ってくるんじゃないか。

 「再生すべき自然はすぐ近くにあった。やらなきゃいけないことはこれだ」

 2021年1月、ロコワカ池の雑草を駆除するボランティアを始めた。

 夫のパトリックさんと2人で週3回ほど、数時間かけて抜いていく。

 5メートル、10メートル……。外来種の草がないエリアが少しずつ広がり、水面や陸地の見通しがよくなると、水鳥たちがすぐに飛来するようになった。

 池で羽を休め、えさを探しては、またふらっと去っていく。種類もみるみる増えた。

 待ち焦がれていた相手は、翌年に現れた。

 5月13日の夕方。池の端に、セイタカシギのつがいが立っているのに気づいた。全身の毛穴が開くのがわかった。

 「いた、いたよ!」

 震える手でスマートフォンを取り出し、動画を撮った。すぐに飛んでいってしまったが、自分たちがしていたことは正しかったと確信できた。

 SNSで活動をPRし、協力してくれる人を募ることにした。今では地元の人や学生、ツアーの参加者たちが協力してくれる。「根っこのところに球根がありますから、鎌で掘り返して下さい。そうしないとまた生えてきちゃう」。長女でモデルの潤さんら、子どもたちも手伝ってくれた。

 その冬、ネネのつがいが池に巣を作った。

 年明けには2羽のヒナがかえった。4羽は、水辺を泳いだり、あたりを歩き回ったり。

 そして今年3月、悲劇が起きた。

 ネネの家族が道路を横断していて、自動車にはねられた。停車して待ってくれていた車がいたが、後ろから来た別の車がその車を追い抜こうとして、反対車線ではねたという。母親は即死だった。

 道路には「ネネ通行中」の標識があったのに、防げなかった。

 「標識だけでは不十分。鳥たちを守るためには、さらなる予防措置が必要だ」

 速度制限の厳格化を求め、郡議会で訴えた。行き交う車が速度を出しすぎていることを示す計測結果も提出。賛同してくれた議員が「この地域は屋外学習でもよく利用される。ネネを交通事故から守る努力は、子どもたちを守ることにもつながる」と主張した。

 郡議会は8月、制限速度を時速30マイルから25マイルに引き下げ、道路にかまぼこ形のハンプを設置する方針を決めた。

 「ハワイは200年の間に森林がすっかり伐採され、島中にいた鳥や植物たちは島の一部に残るだけになった。ぼろぼろの自然を、すべては無理でも、身近なところから少しずつ再生していきたい。自然と水と人とが共存していたハワイを取り戻せるように、水鳥たちが安全に過ごせるように、力を合わせていきたい」

    ◇

 それにしても、なぜ日本人の…

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