吹き抜けの玄関ホールの壁にかかる「標本」に、目が釘付けになった。大阪大学の豊中キャンパス(大阪府豊中市)にある総合学術博物館。展示の目玉が、1964年に学内で全身骨格が見つかったマチカネワニの化石だ。
全長約7メートル、頭骨だけで1メートルもあるごっつい巨体が迫ってくるようだ。
【撮影ワンポイント】マチカネワニの化石
しゃがんだり、エレベーターに乗って見てみたり、離れてみたり、おもしろそうなアングルを探し回った。床に寝そべって標本を見上げた時、ぱっくりと開いたワニの口が迫り、まるで今にも自分が食べられそうな雰囲気を感じた。特有の長い口と、鋭い歯が目立つように撮影した。(白井伸洋)
ホールにあるのはレプリカで、自由に撮影できる。3階の展示室ではガラスケースに入った実物を見ることができる。
化石は、理学部棟の建設現場から出土した。化石ファンの若者たちが見つけて大阪市立自然史博物館に持ち込み、本格的な調査につなげた。
掘り出された骨格は全身の8割近くに達し、約45万年前にいた巨大ワニの新種と判明した。オスの成体で、仲間と争ったのか、下あごや後ろ脚に深手を負って生きていた。
巨大ワニは日本に住めたのか?の謎
「世界的にも貴重な標本で、大学だけでなく地元の誇り。とにかく実物を見に来てほしい」。元館長で名誉教授の江口太郎さん(75)はこう話す。
マチカネの名は、枕草子にも登場する一帯の丘陵地「待兼山」に由来する。豊中市の公式マスコットになったほか、2014年に国の登録記念物にも指定された。
爬虫(はちゅう)類のワニは寒さに弱く、多くが赤道付近の熱帯や亜熱帯にすむ。いま、温帯の日本に野生種はいない。ところが、化石の埋まっていた地層の分析から、当時の日本も現在と似たような気候だったことがわかっているという。
現存種では東南アジアのマレーガビアルに近いとされるが、諸説ある。彼らがいつどこから日本に来て、どのようにくらし、絶滅したのか。謎解きは今も続く。
「神獣」なのか
恐竜は、鳥類として残った仲間を除き、約6500万年前に地球から姿を消した。一方、ライバルでもあったワニの祖先たちは生き延びた。「巨体であってもエネルギー代謝が低く、しばらくは食べ物をとらなくても生きていられる。子どもたちには『恐竜よりワニの方が強いんだよ』と説明しています。でも、人気では恐竜にはかないませんね」と江口さん。
最近の研究で、中国南部で化石が見つかった約3千年前の巨大ワニが、マチカネワニの仲間と判明した。首に切断された傷があり、人や家畜を襲うワニを青銅の刃物で退治したらしい。
中国には「竜伝説」があり、ワニについての古代人の記憶や伝承が伝説を生んだとの説もある。迫力満点の標本は、たしかに人々を畏怖(いふ)させた神獣に重なって見える。
大阪大の歴史や研究者の業績を展示する博物館は入場無料。弥生時代にさかのぼる待兼山の歴史も学べる。取材の日には、留学生の団体が見学に来ていた。(小林哲)
深掘り 中国のワニと「竜伝説」の関係は?
中国で化石が見つかったマチカネワニの仲間について、深掘りしたい。
中国南部・広東省の珠江デル…
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