街ゆかりの歌麿、一村語る 栃木市立美術館開館記念講演

根岸敦生
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 栃木市立美術館(栃木県栃木市入舟町)の開館記念展「明日につなぐ物語」が15日から始まった。展示されている栃木市ゆかりの浮世絵喜多川歌麿日本画家田中一村について、神奈川・岡田美術館の小林忠館長が15日、「栃木が育てた浮世絵師歌麿、栃木に生まれた日本画家田中一村」と題して記念講演をした。約100人の聴衆や関係者が集まった。

 喜多川歌麿は肉筆の「品川の月」「吉原の花」「深川の雪」の3作を栃木の豪商・釜伊(善野伊兵衛)の依頼で描いたと伝わる。小林館長は「歌麿が栃木に来たことは確かだと思うが、謎が多い」と話す。

 作品はいずれも縦が約1・5~2メートル、幅が約2・5~3メートルの大作。「題材は遊郭や芸者町の風景。何の機会に飾ったのか。こんなに大きい掛け軸をどこに掛けたのか。落款がなぜないのか」と疑問点を挙げつつ、「釜伊1人の支援ではなく、町ぐるみの支援があったはず。商家の日記や伝承でも何か歌麿の痕跡がないのか」と話した。そのうえで「文化は今、東京一極集中になっているが、当時は町に豊かさがあった。中央と地方の文化的連携の産物」と評価した。

 栃木市出身の日本画家田中一村(1908~77)については「自尊心が強く、人生を自分で創った人」と評した。師弟関係が強い画壇の中で、枠を飛び出し、鹿児島の奄美大島で画業に励んだ晩年の作品を紹介した。

 「熱帯魚三種」に描かれる毒性のあるヤコウボク、「アダンの海辺」に描かれる食用にならないアダン、「不喰芋(くわずいも)と蘇鐵(そてつ)」のクワズイモ、「白花と赤翡翠(あかしょうびん)」のアカショウビンなどを例に、自嘲や生老病死の「四苦」などを想起させる題材であることを指摘。単なる写生画、装飾画に終わっていないと話した。

 遺品の空き缶の中には薬包紙に小分けにされた高価な岩絵具があったという。「画材を買う十分の金がなく、誠実に美術に打ち込んでも、世間に知られずに逝った一村。突き動かされるものがある」と解説した。

 今回の開館記念展には歌麿や一村の作品も並ぶ。小林館長は「市民に愛される地域の美術館に育って欲しい」と話した。根岸敦生

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