生活保護の親族への「照会率」、自治体で10倍超の差 朝日新聞調査

贄川俊 川野由起
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 生活保護を申請した人の親族に仕送りができないか尋ねる扶養照会について、全国の主要自治体が実際に親族のうちどれぐらいの割合に照会したかを朝日新聞が調べたところ、自治体によって大きく異なっていることがわかった。2021年度に生活保護の開始が決まった世帯について、実際に照会をした親族の割合(照会率)を算出すると、自治体によって10倍以上の差があった。

 扶養照会は、生活保護を申請した人や、受給が決まった人の3親等以内の親族に、仕送りなどの援助ができるかを問い合わせる仕組み。保護を受ける本人から、親族の状況や関係性などを聞き取り、ほかの自治体に戸籍を照会するなどして親族を把握する。実際には、親や子、きょうだいなどに照会する自治体が多い。

 朝日新聞は、全国の県庁所在市、政令指定市と東京23区の計74市区にアンケートや情報公開請求を実施。2021年度に保護の開始が決まった世帯に関して、照会の状況を調べた。照会の対象となる「扶養義務者」としてリストアップした親族の人数と、実際に照会をした人数は、59の市区から回答が得られた。横浜市神戸市北九州市、大田区など15の自治体は、一部のデータがないなどの理由で照会率を計算できなかった。

 59市区で最も照会率が低かったのは中野区の5・5%で、リストアップした親族2009人のうち、照会したのは110人だった。次いで、水戸市の12・4%、足立区の17・6%が低かった。逆に最も高かったのは佐賀市の78・0%で、945人のうち737人に照会していた。2番目は品川区の73・0%、次いで宇都宮市の69・6%だった。照会率の平均は41・9%だった。

 扶養照会は、生活が苦しくても「親族に知られたくない」として保護の申請をためらうことにつながりかねないとして、生活困窮者の支援団体などから批判が強い。

 従来、厚生労働省は、高齢者だったり、長期間連絡をとっていなかったりした相手は照会しなくてもよいとしていた。しかし、保護を受ける本人が嫌がっていても照会する自治体もあるなど運用がまちまちだとの指摘もあり、厚労省は2021年2~3月、改めて照会しなくてもよい親族の具体例を示すとともに、保護を受ける人が扶養照会を拒んでいる場合は特に丁寧に聞き取ることなどを求める文書を自治体向けに出している。

 しかし、その文書の後にあたる2021年度でも、自治体によって運用が大きく異なることが改めて浮き彫りになった。

 福祉事務所でケースワーカーをした経験もある立命館大学の桜井啓太准教授(社会福祉学)は、2021年の厚労省の文書について、「確かに具体例を示したが、最終的な判断を自治体に委ねていることには変わりがない。例示ではなく、扶養照会の対象を最小限の範囲に狭めるなど誰にでもわかりやすい明確な基準を国が設けるべきだ」と話している。贄川俊、川野由起)

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