中国との距離、見直し迫られたドイツ ウクライナ侵攻で「目覚め」

有料記事ウクライナ侵略の深層

ベルリン=野島淳
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 18日に来日して岸田文雄首相と会談するドイツのショルツ首相は、ロシアによるウクライナ侵攻後、長年続けた安保戦略を大きく変えたとみられています。日本と同様、第2次世界大戦後は軍事面で抑制的に振る舞ってきましたが、ウクライナへは主力戦車提供に踏み切り、国防費の増額を決めました。こうした変化は、ドイツが中国との距離を見直し、日本へ近づく下地ともなりました。いったいどんな力学がドイツに働いたのか。ベルリンにある公共政策大学院ヘルティースクールで国際安全保障センター長を務めるマリナ・ヘンケ教授(国際関係論)に聞きました。

 ――第2次大戦後、ドイツはロシアとも友好的な関係を続けてきましたが、ウクライナ侵攻直後、ショルツ首相は「時代の転換点(ツァイテンベンデ)」という言葉で、国防費の増額やウクライナへの武器支援に乗り出しました。これをどう評価しますか。

 「国防予算が増えることは確かです。しかし、ショルツ氏が打ち出した1千億ユーロ(約14兆円)の特別基金では十分ではありません。米国のF35戦闘機を35機買うだけで100億ユーロかかってしまう。ウクライナへの武器供給についても、米国の圧力なしにドイツが支援することはなかったでしょう」

「国際機関や国際法が解決してくれる」と信じていたドイツ

 「しかし、ドイツで見られるのは、地政学的な問題への目覚めです。東西ドイツ統一後の約30年間、ほとんどのドイツ人にとって、戦争は直接、自分たちに関わるものではないと考えられてきました。国際機関や国際法に基づく世界秩序がこの世のすべての悪意を解きほぐしてくれる。そう固く信じていたのです。それが今、世界はそうではないかもしれないということに目覚めているように思います」

 ――具体的にはどういう変化でしょうか。

 「ドイツはこれまで、北大西洋条約機構(NATO)を通じた米国、欧州連合(EU)、ロシアや中国という勢力がそれぞれ頂点をつくる三角形の真ん中で、中立をうまく保ってきました。どちらに近づくか、そのときどきの情勢で自らの立場を決めればよかった。ロシアからは安いエネルギーを得て、中国に製品の売り先としての巨大な市場を提供してもらって利益を得た。防衛力はそれほど強くなくても、NATOメンバーとして、米国に守ってもらえれば安心だった。便利な30年だったわけです」

対中関係、見直し迫る米国 慎重なドイツ産業界

 「しかし、ロシアのウクライ…

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