ALS患者嘱託殺人事件の元医師 父殺害事件で懲役13年 京都地裁

徳永猛城 森下裕介

 2011年3月、自身の父(当時77)を殺害したとして、殺人罪に問われた元医師の山本直樹被告(45)=医師免許取り消し=の裁判員裁判の判決が7日、京都地裁であった。川上宏裁判長は、介助などから父を疎ましく感じていたとし「医師の知識や経験をもとに殺害計画を練り上げた巧妙さや悪質さは他に類を見ない」と述べ、懲役13年(求刑懲役20年)を言い渡した。

 山本被告は、知人の医師の大久保愉一(よしかず)被告(44)とともに、難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者を殺害した嘱託殺人罪などでも起訴された。父の殺人事件とは別に審理されるが、公判日程は決まっていない。一連の事件で判決が出たのは初めて。

 判決によると、山本被告は11年3月5日、長野県内の病院に長期入院していた父を、母の淳子被告(78)と退院させた後、大久保被告と車で東京都内のアパートに移動させ、何らかの方法で殺害した。

 判決は、山本被告と淳子被告は、入退院を繰り返していた父について多くの苦労をしてきたことから、遅くとも10年ごろには死を望むようになったと指摘。山本被告が大久保被告と殺害計画を具体化させ、淳子被告にもメールで共有し、遅くとも事件当日までに殺害計画を練り上げたとした。

 また、退院後にアパートに移動させ、死亡診断書の偽造文書を作って区役所に提出するなど「計画に基づいて殺害されたと合理的に推認できる」とし、3人に共謀があったと認めた。

 弁護側は事件当日、山本被告が大久保被告に計画の中止を提案したが、アパートの部屋で大久保被告と父が2人だけになった10分程度の間に殺害を実行したとし、無罪を主張していた。

 だが、判決は「付き合いの長い山本被告の父を、無断かつ独断で殺害したというのはあまりにも不自然」と指摘。事件後に、意思に反して殺害したことへの非難や後悔をうかがわせるやり取りがない一方、感謝の気持ちを述べていたなどとし、弁護側の主張は「信用できない」とした。

 父の殺害事件は、ALS患者への嘱託殺人事件の捜査過程で浮上。父は解剖を経ずに火葬された中、死亡から約10年後、京都府警が山本被告らを立件した。

 判決は、他殺を疑われないような計画を練り上げ、長年にわたり、殺人が発覚しなかったと指摘。山本被告は、事前準備や退院手続き、死亡診断書の偽造など「計画の完遂に不可欠な役割を主体的・主導的に果たした」と認めた。父を巡る苦労をふまえ、動機や経緯に同情の余地もあるが「典型的な介護殺人などとは異なる」などとし、懲役13年が妥当だと結論づけた。

 父の殺害事件を巡っては、淳子被告の公判が今月13日に始まる予定。弁護側は「共謀は成立しない」などと無罪を主張する方針。(徳永猛城、森下裕介)…

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