希少な生物、異変に目をこらす 福井市自然史博の出口翔大学芸員

乗京真知
[PR]

 緑豊かな山々や入り組んだ海岸線に囲まれ、四季がはっきりしている北陸は、北方と南方の多様な生き物が行き交う「生命の交差点」となっている。その生態を調べ、記録を残し、次世代に伝える役割を担っている一人が、福井市自然史博物館の学芸員の出口翔大さん(33)だ。

 湿地に茂ったアシの間を黄緑色の小鳥が飛び回る。「(渡り鳥の)ノジコがいましたよ!」。ラムサール条約に登録されている中池見湿地(福井県敦賀市)で昨秋、出口さんを案内役とする野鳥の観察会があった。

 観察会は自然史博や日本野鳥の会福井県が企画し、家族連れら約50人が参加。耳を澄ますと「チッ チッ」という鳴き声も聞こえてきた。

 小気味良いさえずりが人気のノジコは体長十数センチ。環境変化や乱獲で減り、環境省のレッドリストでは準絶滅危惧種に指定されている。主に東北で繁殖し、寒くなると越冬のため東南アジアに渡る。その渡りの中継地が中池見湿地だという。

 ノジコは出口さんにとって憧れの鳥だった。小学生のころから自然史博に通い、福井市の足羽山などで生物を観察。新潟大学農学部に進み、環境変化が鳥の生態に与える影響を調べた。化学メーカーに就職したが大学院に戻り、学芸員になる夢を2017年にかなえた。

 自然史博では鳥類だけでなく哺乳類や魚類、両生類など脊椎(せきつい)動物全般を担当。過去の記録を整理し、陸にすむ哺乳類が北陸3県に60種いることを論文にまとめた。日本にいる陸生哺乳類の4割以上が北陸で見られることを意味する。

 調査対象は生きた個体だけではない。車にひかれた小動物や海岸に打ち上がったイルカなども研究に生かす。死骸を引き取り、市民ボランティアとともに骨格標本を作って教材にする。3月には福井の動物標本を一堂にそろえた特別展を自然史博で開く予定だ。

 福井では近年、珍しい姿形の動物が相次いで見つかっている。背中に赤い模様があるサンショウウオや、ニホンイタチとシベリアイタチの交雑種、二つの頭を持つトカゲ……。出口さんは情報を聞き取り、分析し、疑問が湧けば専門家とともに生息地に足を運ぶ。最先端の学問と地域の発見を橋渡しするのも学芸員の役割だ。

 正月明けの1月8日には、石川と福井の県境部で早朝から望遠レンズを構えた。天然記念物のマガンの群れが石川県加賀市の池から福井県坂井市の田畑に何羽向かうか、自らの目で確かめるためだ。

 「福井が動物にとって魅力的なエサ場や休息地であり続けられるか、目をこらしたい」。自然の変化をかぎ取り、地域に知らせ、郷土の自然を守っていく。変わらぬ信念で、今日も双眼鏡を握っている。乗京真知

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【お得なキャンペーン中】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら