第5回ジンギスカン、食べられなくなったふかわりょう 羊に抱いた愛情

「羊をめぐる冒険」をたどって

聞き手・佐々木洋輔
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 タレントのふかわりょうさん(48)は、羊好きが高じて北欧の島国アイスランドに通い詰め、その経験を旅行記「風とマシュマロの国」(2012年、幻戯書房)にまとめた。「ジンギスカンは食べられない」と話すふかわさんに、アイスランドでの羊体験を聞いた。

 ふかわ・りょう 1974年生まれ、横浜市出身。慶大在学中にお笑い芸人としてデビュー。ROCKETMAN名義での音楽活動やエッセー集など著述業も。近著に「ひとりで生きると決めたんだ」

 アイスランドには2007年に初めて行きました。以来10年間にわたって毎年訪問しました。計10回。毎回、一人旅です。

 当初の旅の目的は地球が生きていることを確かめたかったからです。

 アイスランドで、温泉が噴出する間欠泉や北米大陸とユーラシア大陸のプレートの境目を目のあたりにしました。地球が呼吸をしているようでした。巨大な滝やむき出しの岩肌はまるですっぴんの地球です。確かに地球は生きていると実感できました。

 アイスランドには至る所に羊がいます。

 車を走らせていると、さんさんと日差しが降り注ぐ中で、丘の上に羊たちの群れが見える瞬間がありました。何も遮るものがない草原の中に白いふわふわした物体が揺らめいている。まるでマシュマロのようでした。アイスランドを象徴する風景です。

 2度目の旅行の時だったか。あるとき、仰向けで脚をばたばたさせている羊に出会いました。溺れているように見えます。起き上がりたいのかな、と思って近寄りました。羊の背中と地面の間に腕を滑り込ませて、ゴロンとひっくり返してあげると、羊は少しよろめきながら、ゆっくりと群れに帰って行きました。

 調べてみると仰向けになった羊は自分では起き上がれないそうです。羊は仰向けのままだと、のどにガスがたまって死んでしまう。モコモコした大きなからだの割に脚はきゃしゃです。羊は人間によって、自分では起き上がれないからだに改良されてしまったのです。

 そのことを知ってからアイスランドに行く目的が、仰向けになった羊を起こしてあげることに変わりました。島内を車で周遊しながら、仰向けの羊を探して回りました。

 20歳で芸能界にデビューしてから10年くらい、休まずに走り続けてきました。30代になって日本とは違う空気に触れる機会があってもいいかなと。そういうタイミングで出会ったのがアイスランドと羊でした。

 羊に会うことで、無意識のうちに心が潤される気がします。

 羊は群れで行動しているので直接触れることは難しい。ただ、人間の声には反応します。「おーい」と呼びかけると、羊たちは一斉に振り返ったり、「だるまさんが転んだ」のようにピタッと止まったり。その様子がかわいらしいんです。そういうことを重ねていくうちに、心が潤されていくという感覚がありました。

 羊との出会いを重ねた旅行中、食事でラムチョップが出てきたとき、どうしても食べることができなかった。いまもジンギスカンは食べられません。

 ここ数年は北欧人気が高まったり、コロナ禍だったりで、アイスランドには行けていません。

 また、羊に会いに行きたいです。いつか長期滞在して、羊たちとアイスランドの四季を感じてみたいなと思っています。(聞き手・佐々木洋輔)

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