松任谷由実さんは「私はユーミンの奴隷」と語る 名言に潜むプロ意識

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 今年、デビュー50周年を迎えた松任谷由実さんは、数々の名曲だけでなく、CDジャケットのデザインやツアーの演出も、綿密に作り込んでいます。「アートワークは私にとっての羅針盤です」と語ったこともあるといいます。

 Spotifyと朝日新聞ポッドキャストは、ユーミンの足跡と日本社会の変化を振り返る「ユーミン: ArtistCHRONICLE」を制作。5回目は、ユーミンのアートワークを手がける、アートディレクターの森本千絵さん(46)をお招きしました。森本さんと親しい朝日新聞の小泉信一編集委員(61)と、朝日新聞ポッドキャスト・チーフMC神田大介(47)が語り合い、ユーミンの素顔に迫ります。一部を編集してお届けします。

神田:森本さんは2013年の「POP CLASSICO」、2016年の「宇宙図書館」など、ユーミンのアルバムのジャケットを中心にアートワークを手がけていますね。

森本:はい。2020年の「深海の街」も手がけました。プロモーションビデオも作りますし、寅さんの格好をして映画男はつらいよ」50周年のポスターも作りました。

神田:実は「男はつらいよ」の取材を続けてきた小泉さんが2019年、森本さんのことを記事で書いているんですよね。

小泉:寅さんはダンディーな男でかっこいい。そこにフォーカスしたポスターで、「すばらしい感性だなあ」と思ったんです。

神田:ただ、今回はユーミンについて話しますね。まず「POP CLASSICO」はアルファベットでP、O、P……と11文字。非常に凝ったデザインのなかに、ユーミンも見え隠れしていますね。

森本:サンゴの絵を交えてコラージュで大きな文字を1文字ずつ作り、撮影しました。きっかけは、山田洋次監督の率いる撮影チームの皆さんに誘われ、鹿児島県奄美大島へ行ったことです。「POP CLASSICO」の企画ができなくて時間がなかったけど、海に潜ったらサンゴの世界の中にユーミンが見えてきた。慌てて帰って「P」から「O」まで11文字を描き上げました。

神田:そもそも、最初にコンセプトを提示されるんですか。

森本:思い起こせばユーミンのご自宅に招いていただきました。エプロンをしたユーミンと、夫でプロデューサーの松任谷正隆さんがいて、窓際の机の所で「アルバム名を『POP CLASSICO』にしようと思う」と言われました。ユーミンは相反する言葉の中で、真実を紡ぎ出す。その究極な形で「POP CLASSICO」という言葉が生まれた。「あるようで新しい世界のファンタジーを考えてください」ということでした。

「みんなのユーミンだから」

神田:撮影に2日間かけたそうですね。

森本:ユーミンが毎回、違う衣装に着替え、写真家のレスリー・キーさんが撮影しています。衣装でユーミンの動きが指先まで変わって、すごいんですよ。「私はユーミンの奴隷だから」と、ユーミンは言っていました。

 「何時までかかってもいい。みんなのユーミンだから」と、少年みたいな格好にも、おじさんみたいな格好にもなって、すごいサービス精神で挑んでくれる。そんなユーミンに魅せられて、2日間かかっちゃいました。すごいプロフェッショナルだと思います。

神田:「POP CLASSICO」の中で印象に残っている曲はありますか。

森本:「MODÈLE」です。その曲がNHKの番組「ユーミンのSUPER WOMAN」の主題歌でした。そして番組1回目のゲストとして、初めてユーミンに会い、和歌山県高野山に一緒に泊まりました。

 収録の時、ユーミンに「女に貫禄はいらないの。変に意固地に貫禄を持って、男みたいに気負って働かなくていい」と言われたんです。「MODÈLE」を聴くと、その時間と言葉を思い出して、初心に帰ります。

新曲は懐かしく、昔の曲は新鮮に

神田:すごいきっかけですね。ご自身で初めてユーミンの曲を聴いたのはいつですか。

森本:初めてCDを自分で買ったのは「ひこうき雲」かな。あと進路で迷った時、母がユーミンのファンで、「美術大学という選択肢がある。ユーミンは美大だから、歌に絵心がある」と強く言われました。

神田:2013年に公開された映画「風立ちぬ」の主題歌が「ひこうき雲」。時代を超えて「ひこうき雲」が聴かれた時期に「POP CLASSICO」が出ていましたね。

森本:でも2015年には映画「リトルプリンス 星の王子さまと私」の主題歌として「気づかず過ぎた初恋」を作っています。「宇宙図書館」もそうですが、新曲なのに懐かしい。一方で、昔の曲はいまだに新鮮に感じる。行き来する感じが不思議ですね。

神田:「宇宙図書館」もすごく大変な撮影だったと聞いています。

森本:この時は、東京ディズニ…

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