「恋愛しなきゃ」私を縛った強迫観念 ユーミンがバブルに与えた影響

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 今年、デビュー50周年を迎えた松任谷由実さん。バブル期を迎えていく日本でスターとなり、1987年に主題歌や挿入歌にユーミンの曲を使った映画「私をスキーに連れてって」も公開されました。ユーミンは当時、若者にどう受け止められていたのでしょうか。

 Spotifyと朝日新聞ポッドキャストは、ユーミンの足跡と日本社会の変化を振り返る「ユーミン: ArtistCHRONICLE」を制作しました。4回目は朝日新聞ポッドキャスト・チーフMC神田大介(47)、デジタル機動報道部記者の藤えりか(52)、コンテンツ編成本部長代理の石田博士(52)が出演。一部を編集してお届けします。

神田:今回、1987年公開の「私をスキーに連れてって」を、同い年の2人に対する、課題図書ならぬ課題映画としました。

石田:見ました。懐かしい。俳優の三上博史さんが、スキーが上手だけど純朴でおくてな若者の役で、スキー場で出会ったヒロイン役の原田知世さんに恋をしてしまうお話です。

「車が必要」と思い込んでいた

藤:当時、高校生だったんですけど、あの頃って「スキーをやりたい」という空気が、すごくあったんですよ。私も深夜バスに乗って男女グループでスキーに行きましたよ。

 あの時は、バスでも行くし、男の子も車で連れて行くけど、女性が運転して行くのは少なかった。映画の中で、原田知世さんのお姉さんの原田貴和子さんは、運転がうまい人という設定で出演していたけど、ああいう女性の登場も、あの時代という感じがします。

石田:車がないと暮らしていけないと思い込んで、みんな乗っていましたね。あと、車とカーステレオの音楽で、人柄がわかるところがあった。ユーミンがカーステレオでかかると、田舎の芋くさい日本の風景でも、なんだかおしゃれに見えてくると思いました。

藤:昔から日本のドラマや映画はあまり好きじゃなくて、海外のものを見ていたんです。でも「私をスキーに連れてって」は、ユーミンの主題歌でおしゃれ感がまぶされる。

 テレビもそうでした。高校3年生の時、ドラマ「意外とシングルガール」は見たんです。おしゃれな働く女性が「結婚して」といろんな男性に言われちゃうお話で、主題歌がユーミンの「メトロポリスの片隅で」でした。

神田:歌詞は「さようなら あのひと ふりきるように駆けた階段 ひといきれのみ込む通勤電車 涙ぐむまもなく ごらん、そびえるビルの群れ 悲しくなんかないわ ときどき胸を刺す夏のかけら きらめく思い出が痛いけど 私は夢見る Single Girl」。失恋しても仕事がある。悲しくないし夢を見ていていい。そういう内容ですよね。

藤:失恋も扱うけど、悲しくなりすぎない。80年代の、全てがカジュアルに語れちゃうような空気が表れているのかなあ。この歌はその象徴のような感じがしますよね。

ユーミンが時代を先取りしても…

神田:「意外とシングルガール」は、「私をスキーに連れてって」の公開から1年後、1988年に放送されました。しかし「メトロポリスの片隅で」は1985年のリリースです。85年に何があったか知っています?

藤:男女雇用機会均等法ですよね。

神田:そう。法律が制定された1985年に曲を作って、時代を少し先取りしている。でも、ドラマになるのは3年後なんですよ。

藤:1985年の5年前に「恋人がサンタクロース」がリリースされたけど、ロングランではやって、私が大学生の時も、クリスマスといったらこの曲。クリスマスは恋人と過ごさなきゃいけないという強迫観念を植え付ける、いわば元凶ソングですよね。ユーミンの楽曲はその時々では先に行っていたかもしれなくても、受け入れる側は少し前のものを愛好し続けて、時代が変わらない感じがしました。

 「サーフ天国、スキー天国」という曲の歌詞も、スキーする彼を眺めている。時代の限界かもしれないんですけど、こういう歌が街にあふれることで、彼氏がいないといけない強迫観念に縛られていく感じがしますよね。

アッシーくん、当時の実情は

神田:ちょっと聞きたいんですけど、1990年の流行語の「アッシーくん」、覚えています? アッシーくんとして使われるのは男性で、女性の方が上にいる感じがするんですけど、当時の空気感ってどうだったんです?

藤:アッシーくんという言葉は、日常会話に出てきましたよね。

石田:ええ! 彼氏じゃないん…

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