「恋人の連れ子への虐待」名前を付けませんか? 酒井順子さんの提案

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岩本美帆

 今から19年前の2003年、「30代以上・未婚・子ナシ」の女性を「負け犬」と定義した本が大ベストセラーになりました。エッセー『負け犬の遠吠(とおぼ)え』の著者酒井順子さん(55)は、みんながもやもやと気になっているけれど言語化できない事象を、名付けることでクローズアップさせる名人です。「政治的な発言はしない」という酒井さんに、酒井さん流の選挙、そして政治への向き合い方について聞きました。

「親子でも聞いちゃいけないことはある」

 子どもの頃にかけられた父からの言葉で、今も強く印象に残っている言葉があります。父は出版社勤務で真面目で物静か。(ウェイウェイと明るく騒ぐ)「ウェイ系」からしたら「非ウェイ系」ですね。にぎやかで社交的な母とは正反対でした。

 父は選挙には絶対に行くという人でした。小学生のころのことです。その日も何かの選挙から戻った父に軽い気持ちで「誰に投票したの?」と聞きました。すると普段感情を表に出さない父がいつになく毅然(きぜん)とした表情で「誰に投票したかは、聞いたらいけないんだよ」と。「なぜ?」と問うと、「家族だからといって、皆が同じ考え方をしなくてはならないわけではないし、誰に投票するかも自由。けれど、誰に投票したかを言わなくちゃいけないとしたら、自由な考えを持てないでしょう? だから、親子でも聞いちゃいけないことは、あるの」と、こんこんと諭されました。

 いつになくきっぱりとした父の物言いは、幼心に強い印象を残しました。「どれほど親しくとも、他人を自分の考えで縛ったり、考え方を認めなかったりするのは良くないんだ。なるほど」と。その影響でしょうか。今まで選挙があれば、投票は欠かさずしてきました。いつもひとりで行きます。今回の参院選も、もちろん行きます。父の教えが染みこんでいるのか、誰に投票したかは、聞かないし言わないですね。

2003年、「30代、未婚、子ナシ」の女性を「負け犬」と名付けることで逆に彼女たちを肯定し、生きやすくさせることに成功した酒井さんは、「上手な名前がつけられることによって光が当たる社会問題は、たくさんある」と説きます。新著「うまれることば、しぬことば」では「セクハラ(セクシュアルハラスメント)」などの外来語は「黒船的な役割を果たした」と分析します。

「政治的発言は絶対にしない」、でも……

 政治的発言ですか? 私はし…

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