「人の痛み」国境も越えるはず 西本智実が信じる科学と音楽の共鳴

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聞き手・服部尚
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 寂しいときや、苦しいとき。人は、さまざまな音楽に心を癒やされる。

 でも音楽がこころに及ぼすメカニズムは、まだわからないことが多い。

 ロシアを始め、世界を舞台に活躍する指揮者の西本智実さんは、この難題を解こうとしている。

モスクワ公演での出会いがきっかけ

 科学と音楽を結びつけたいという思いを、20年ほど前から抱いていました。

 きっかけは、ロシアのモスクワであった公演です。終演後、聴覚に障害のある方が私の楽屋に来られたのです。

 うっすらとなら音が聞こえるそうですが、指揮者の動きを見ながら、次にどんな音が出るのかを予想したり、木の座席を通じて伝わってくる振動を感じたりして、楽しんでいる、と。そう手話を交えて教えてくれました。

 そのような音の感じ方があることは、以前から認識していましたが、改めてそう言われて「そうか!」と。

 音楽が感性に響くのは、振動の影響がある。そう思うきっかけになりました。

 私はロシア国立交響楽団やミハイロフスキー劇場、ウクライナ国立オデッサ劇場に招聘(しょうへい)されるなど、ロシアとウクライナの両国に、舞台を共につくってきた仲間や友人がいます。

 キエフ公国を両国の文化的祖先とする共有認識も強く、芸術的に互いに敬意を持ち、支え合う姿を見てきました。

 だからこそ、今のこの状況には、胸が張り裂ける思いです。

 音楽を使った脳科学研究によって、痛みや悲しみを癒やし、安寧や調和を希求する心で結ばれる世界を目指したい。そう思っています。

母が贈ってくれた紙袋いっぱいのノート

 音の不思議を調べていくと、古代ギリシャの数学者ピタゴラス派の音楽研究にまでさかのぼります。

 音楽は文系に分けられること…

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