注文から1分で提供、スピードご当地グルメ 今治焼豚玉子飯

照井琢見
【動画】せっかちな愛媛・今治人に人気の「今治焼豚玉子飯」=照井琢見撮影
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 頼んでから出てくるまで、約1分。「今治焼豚玉子飯(やきぶたたまごめし)」は、瀬戸内海に面した愛媛県今治市のご当地グルメだ。せっかちな今治人に、半世紀にわたって愛されてきた。

 こんもりと盛られた白いご飯。その上に並んだやわらかな焼き豚を、半熟の目玉焼きが覆う。焼き豚の煮汁に、しょうゆや砂糖をあわせたタレが、独特の甘辛さを生み出す。「どこにでもあると思われがちだけど、割とどこにもない味」と語るのは、小畠源さん(46)。「今治焼豚玉子飯世界普及委員会」の代表として、地元自慢の味をPRしている。

 小畠代表によると、今治焼豚玉子飯は約50年前、市の中心部にかつてあった中華料理店「五番閣」で生まれた。「造船業が盛んな今治。目玉焼きや、焼き豚を焼くための鉄板も手に入れやすかったと思う」

 当時から、提供の早さは自慢の一つだったという。「今治人はイラチ(せっかちな気質)。とにかく早く食べて、早く帰りたい。今みたいに牛丼屋なんか周りにないし、焼豚玉子飯が簡単に広がる土壌があった」

 安くて、早い。そして腹にたまる。ほかの中華料理店でもメニューとして提供されるようになり、男子中高生を中心に人気を集めた。彼らが大人になると、飲み会後の「シメの一品」になっていった。

 それでも長い間、地元でも知る人ぞ知る料理だった。知名度が上がったのは、10年ほど前のことだ。

 地元の商店主らが2006年に普及委員会を結成し、各地のグルメイベントに出展し始めた。11年からはB級グルメの祭典「B―1グランプリ」にも出場。上位入賞を果たすと、観光客が市内の中華料理店に行列を作るようになった。

 ただ、コロナ禍でグルメイベントは中止が相次ぎ、PRの場は狭まった。そこで、普及委員会では昨夏から、冷凍した玉子飯の具をホームページで販売している。

 小畠代表は言う。「今治焼豚玉子飯が市民権を得た自負はある。コロナ禍でも策を練って、食文化を通じて今治を世界に発信したい」

 今治焼豚玉子飯は、市内約50店舗で味わえる。小畠代表に、市内の中華料理店「白龍」に連れて行ってもらった。かつて五番閣で働いていた小池輝隆さん(69)が腕を振るう。

 小畠代表のアドバイスは「初心者は小サイズ」。厨房をのぞくと納得した。「小」を頼んだはずなのに、小池さんが山盛りのご飯をお皿によそった。小池さんも、やはり「スピードが大事」と話す。

 五番閣の味を「何を変えるわけでもなく、そのまま」守っているという。ご飯の上に焼き豚を並べて、豚骨や鶏ガラのスープをベースにしょうゆやニンニクで調えたタレをかける。小サイズの目玉焼きは卵二つ分。強火で一気に仕上げ、とろとろの半熟に。手際よく盛り付け終わると、1分ほどで丼が運ばれてきた。

 食べ方の「お作法」は、まず丼の半分をかき混ぜて、かき込むこと。半熟の目玉焼きを一つずつ、焼き豚やご飯と混ぜ合わせ、「ぜいたくな卵かけご飯みたいな感覚で味わうことができる」(小畠代表)そうだ。

 ほぐれた豚肉、タレのしみた茶色いご飯が、どろどろの卵と絡まる。のどに滑り込む感触が心地よく、レンゲを動かす手が早くなる。小畠代表も「うん。飲み物ですね」と満足げ。あっという間に平らげた。(照井琢見)

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 〈今治焼豚玉子飯世界普及委員会〉 ホームページ(https://i-ytm.com/別ウインドウで開きます)で買える冷凍の具は委員会のオリジナル。1個810円(税込み)。

 白龍 「焼豚入玉子めし」の小サイズは550円で、普通サイズは660円(いずれも税込み)。午前11時~午後9時(木曜定休)。愛媛県今治市郷本町1の1の15。電話0898・32・8797。

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