LGBT運動はなかった? 「検索ゼロ=存在せず」の罠

有料記事メディア空間考

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メディア空間考 原田朱美

 ある大学生のリポートを読んで、手が止まった。「2000年ごろ、LGBTのために動こうという動きは、日本にはなかったと考えられる」と書いてある。

 ええと……たしか、テレビドラマ「3年B組金八先生」で上戸彩さんが性同一性障害を演じて話題になったのは2001年だっけ。LGBTの当事者団体や、支援・啓発活動は、もちろんもっと前から日本にあったし……。

 はて、この学生の誤解の根っこはどこにあるのか。しばらく考えて合点がいった。言葉だ。

 私が大学で受け持つ情報リテラシーの授業では、いろんなテーマで調べものをしてもらう。冒頭の学生はLGBTを調べた。そう、文字通り「LGBT」で検索をした。「2000年ごろはLGBTの新聞記事がほとんどなかった。ということは、ニュースになるような動きが社会になかったのだろう」という推測だった。

 多くの方はお気づきだと思うが、LGBTという言葉が広く使われ始めたのは2015年ごろ。「性的少数者」「セクシュアルマイノリティー」など他の言葉で呼ばれていた頃の情報を見つけていれば、また結果は違っていただろう。

 20歳前後のこの学生にとって、LGBT以前の呼び方は、なじみがなかった。世界中に網をかける検索で出てこなければ、あたかもこの世に情報が存在しないかのように思える落とし穴だ。

 これは、世代が逆でも起きうる。

 もしあなたが「とっくり」を…

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    内田良
    (名古屋大学大学院教授=教育社会学)
    2021年8月29日8時37分 投稿
    【解説】

    私自身も大学教員として同じような危機感を抱いています。報道で当の言葉を頻繁に見聞きすると、それが実際に多く出現・発生していると感じてしまいます。 記事で紹介されている「LGBT」や「ディープフェイク」「イクメン」「オワハラ」といった新しい

    …続きを読む